概要
下水試料中の新型コロナウイルス分析
概要
感染拡大が続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、発症前から感染者の糞便に排泄されると報告されています。
このため、人の排泄物が集まる下水処理場で新型コロナウイルスを検査することにより、人の感染の流行拡大よりも前に感染拡大を検知出来る可能性があることから、多くの調査が行われています。また、感染による人体への影響が高く、生活を伴う施設である介護老人保健施設等の個別施設においてトイレ排水を含む下水を調査することで、施設利用者における感染の有無を、ご利用者様に負担をかけることなく一度に検査することが可能と考えられます。
このような下水調査の特徴を活かし、当社では、下水と人の2階建て検査システム「京都モデルTM」を開発し、多くの検査を行ってきました。
調査事例
生活を伴う個別施設において、トイレ排水を含む下水中の新型コロナウイルスを調査したところ、施設内に感染者がおられる場合には陽性の反応が得られることが確認されました。また、施設内でのクラスターが収束するまでに40~50日を要することが確認されました。
臨床PCRで全員が陰性になった後も、下水からは陽性または陰性ではあるもののPCRでの増幅が認められる状態が一定期間継続することも確認され、連続して陰性となることを確認することで施設での収束宣言の目安になることが示唆されました。
縦軸はRT-qPCRのCt値を示しています。原則として営業日は毎日採水しました。当該施設では、day1の8日前に始めの感染者が確認され、その後施設内でクラスターが発生しました。day36以降は下水で陰性が続いており、この結果は臨床PCRの結果と一致しました。
研究
内閣官房研究グラント「ウィズコロナ時代の実現に向けた主要技術の実証・導入に係る個別研究テーマ」の領域3「下水サーベイランス技術の開発」において、当社が提案した「固相抽出による迅速・ハイスループットなウイルス濃縮法の開発」が採択されました(共同研究機関:島津製作所、京都大学、高知大学、金沢大学、富山県立大学)。
新型コロナウイルスの検査では、感染拡大防止の観点から結果の迅速な報告が求められており、これは下水中の新型コロナウイルスの調査においても同様です。
本研究では、従来の方法と比較して、より迅速に、より多くの検体を検査できる方法の確立を目的として、新たな検査法の開発を行っています。さらに、新型コロナウイルス以外のウイルス等への適用も視野に入れた研究も進めています。
実績
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Enabling quantitative comparison of wastewater surveillance data across methods through data standardization without method standardization
Noriko Endo, Aika Hisahara, Yukiko Kameda, Kaito Mochizuki, Masaaki Kitajima, Makoto Yasojima, Fumi Daigo, Hiroaki Takemori, Masafumi Nakamura, Ryo Matsuda, Ryo Iwamoto, Yasuhiro Nojima, Masaru Ihara, Hiroaki Tanaka
Science of The Total EnvironmentAvailable online 7 September 2024 https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2024.176073 -
Explaining the impact of mutations on quantification of SARS‑CoV‑2 in wastewater
Noriko Endo, Yoshiaki Nihei, Tomonori Fujita, Makoto Yasojima, Fumi Daigo, Hiroaki Takemori, Masafumi Nakamura, Ryo Matsuda, Sorn Sovannrlaksmy & Masaru Ihara
Scientific Reports volume 14, Article number: 12482 (2024) https://www.nature.com/articles/s41598-024-62659-y -
藤原英里奈1、醍醐ふみ1 、柴山基1 、嶽盛公昭1 、八十島誠1 、西村文武2 、井原賢3、端昭彦4 、本多了5 、四方正光6 、二宮健二6
1:株式会社島津テクノリサーチ、2:京都大学、3:高知大学、4:富山県立大学、5:金沢大学、6:株式会社島津製作所
「固相抽出による迅速・ハイスループットなウイルス濃縮法の開発」
第45回京都大学環境衛生工学研究会シンポジウム(2023.7.28-29) -
八十島誠、醍醐ふみ、藤原英里奈、柴山基、嶽盛公昭:
個別施設におけるSARS-CoV-2 下水サーベイランス調査とその可能性
第57回日本水環境学会年会 2023年3月15日~17日 -
八十島誠、醍醐ふみ、藤原英里奈、嶽盛公昭、井原賢、田中宏明:
「京都モデル」による個別施設下水を用いた新型コロナウイルス感染者モニタリング
第44回京都大学環境衛生工学研究会シンポジウム(2022.7.29-30)
*優秀プロジェクト賞受賞
http://www.env.kyoto-u.ac.jp/kyoeiken/
http://www.env.kyoto-u.ac.jp/kyoeiken/award/award.html -
八十島誠: 個別施設における新型コロナウイルス感染者の早期検知「京都モデル」とその展開
「非開削技術」No.119、2022.4 -
八十島誠 講演 「個別施設への下水疫学の適用で感染者を早期発見-産学連携で生まれた「京都モデル」」
KRPフェス2021下水から新型コロナウイルスがわかる-産学連携による持続可能な社会に向けて(21/7/21) -
八十島誠1、醍醐ふみ1、友野卓哉1、嶽盛公昭1、田中宏明2、井原賢2(1:島津テクノリサーチ、2:京都大学)
「個別施設におけるCOVID-19感染者の早期発見 -2階建て検査システム「京都モデル」-」
第43回京都大学環境衛生工学研究会シンポジウム、2021 -
八十島誠 講演 「新型コロナウイルスの集団評価に有効な下水疫学とその応用」
令和3年度下水道管理施設管理技術セミナー(21/10/21) -
八十島誠 講演 「下水疫学調査における古くて新しい試料採取方法と「京都モデル」の展開」
生物化学的測定研究会(20/11/5) -
井原賢、八十島誠 「近畿地方の下水処理場および個別施設を対象とした新型コロナウイルスの下水疫学調査」
水環境学会誌 Vol.44(A), No.11, 2021, pp364-369 -
八十島誠、友野卓哉、醍醐ふみ、嶽盛公昭、井原賢、本多了、端昭彦、田中宏明
「個別施設でのSARS-CoV-2感染者の早期発見に適したパッシブサンプラー開発と有効性の検証」
土木学会論文集G(環境)、Vol.77, No.7, Ⅲ-179-Ⅲ-190、2021(査読付き論文)
関連情報
25/10/25 |
下水サーベイランスの概要をまとめた「下水サーベイランスで築く安寧でレジリエントなスマートシティ」が京都府HPで公開されました |
24/06/17 | 新型コロナウイルスの広域監視に活用するための下水サーベイランスガイドライン(案)の参考文献に当社の成果が引用されました |
22/06/01 | 日本下水道新聞 「産学で社会実装を推進 下水サーベランス協会が設立」 記事が掲載 八十島が副会長・技術委員会委員長に任命されました |
22/05/24 | 下水調査により新型コロナウイルスの流行を予測する産学共同の業界団体「日本下水サーベイランス協会」が発足 |
22/03/31 | 国立感染症研究所 監修 施設排水調査ガイダンス・マニュアルの一部を執筆 |
22/03/29 | 八十島誠 パネリスト 海外技術紹介セミナー 「下水疫学を使用したCOVID-19対策」 ―自治体による取り組み例のご紹介― JETRO(ジェトロ)日本貿易振興機構主催ウェビナー |
22/03/23-26 | 八十島誠 依頼講演「「京都モデル」による個別施設での新型コロナウイルス感染者の早期検知」日本化学会 第102春季年会(2022) |
22/02/28 | 八十島誠 パネリスト「DXによる感染症対策と社会実装への挑戦」京都府政策企画部Disease X感染症対策WG公開セミナー |
21/11/16-18 | 八十島誠、友野卓哉、醍醐ふみ、嶽盛公昭、井原賢、本多了、端昭彦、田中宏明「個別施設でのSARS-CoV-2感染者の早期発見に適した端部サンプラー開発と有効性の検証」環境工学研究フォーラム |
21/12/07 | 八十島誠 講演 「施設下水で新型コロナウイルス感染者を早期検知しクラスターの発生を予防する~「京都モデル」のご紹介」NPO給排水設備研究会 関西給排水設備委員会 |
21/12/05 | 八十島誠 講演 「施設下水で新型コロナウイルス感染者を検知~「京都モデル」の開発と展開」日本産業衛生学会全国協議会 |
21/09/24 | 八十島誠 講演 「下水疫学による新型コロナウイルス感染者の検知と個別施設での適用」 全日本科学技術協会 |
21/10/21 | 京都市が下水PCR検査を実施 2階建て検査システム「京都モデル」で協力 |
21/07/28 | 日本下水道新聞 2面 「先進企業が語る下水疫学の可能性」において、弊社八十島のインタビュー記事が掲載 |
21/05/19 | 2階建て検査システム「京都モデル」がTVで報道されました テレビ大阪ニュース 2021.05.18 下水を検査して新型コロナ感染者を発見 島津製作所ら 二段構えの検査システム(テレビ大阪 Webサイト) NHK NEWS 2021.05.18 島津製作所が下水を使ったPCR検査サービス開始 新型コロナ(京都 NEWS Webサイト) 報道RUNNER 2021.05.18 集団の中から無症状の感染者を早期に特定 島津が新たなPCR検査「京都モデル」発表(8カンテレ) |
21/05/13 | 【検査サービス開始】 2階建て検査システム「京都モデル」 新型コロナウイルス感染症のクラスター発生未然防止に貢献 |
21/03/26 | 【実証試験を開始】 2階建て検査システム「京都モデル」 新型コロナウイルス感染症のクラスター発生未然防止に貢献 |
21/03/26 | 京都大学・島津製作所・当社の新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に対する取り組みが京都市情報館サイトに掲載 |
21/02/25 | 下水試料中の新型コロナウイルス分析サービス開始 |
関連リンク 一般社団法人日本下水サーベイランス協会 https://jwwsa.or.jp/ |
20190920