概要
PAHs(多環芳香族炭化水素)の分析[グリーン調達、材料中]
概要
「AfPS GS2019:01PAK(GSマーク認証のための多環芳香族炭化水素(PAHs)試験)」に基づく樹脂・ゴム中の
PAHs分析についてISO/IEC 17025試験所認定を取得しています
グリーン調達対応として、ドイツの「AfPS GS2019:01PAK(GSマーク認証のための多環芳香族炭化水素(PAHs)試験)」に準拠した分析、REACH規則の高懸念物質(SVHC)を対象とした分析、他にも特殊な条件での分析に対応可能です。
背景
PAHs(多環芳香族炭化水素)は、有機物の不完全燃焼や熱分解等で生成する化学物質で、その毒性から国際的にも規制が厳しくなってきており、国内外でも規制の動きが出ています。
PAHsの中ではナフタレンが、染料中間物、合成樹脂、爆薬、防虫剤などとして使用されています。
(初期リスク評価書No.51(初期)ナフタレン、2013年5月 厚生労働省参照)
また、ゴムや軟質プラスチックに含まれる軟化油、ゴムやプラスチックで黒色顔料として使用される煤にも微量含まれており、PAHsを含有している可能性のある材料として、ゴムだけでなく、ABS樹脂やポリプロピレン、ラッカーコーティングしたプラスチックや天然素材などがあることがわかっています。
PAHsの毒性については、発ガン性が古くから知られており、特にベンゾ[a]ピレンについては、World Health Organization(WHO)の一組織であるInternational Agency for Research on Cancer(IARC)の発ガン性分類への総合評価ではもっともランクの高いGroup1(発ガン性のあるもの)にランクづけられるなど、その健康影響が注目されています。
法規制・規格
海外での規制(製品等)
PAHsの製品等に関する規制として、2007年11月に、GSマーク認証についてPAHs検査を必須項目とする通達(ZEK 01-08)が出されました。
口に入れたり接触したりする可能性があるものについての規制値は、ベンゾ[a]ピレンで0.2ppm未満、EPA指定16物質PAHsの合計値が0.2ppm未満とされました。この通達は、ZEK 01.4-08として2011年11月29日に改正され、規制はEPA指定16物質にベンゾ[j]フルオランテン、ベンゾ[e]ピレンを含めた18物質が対象となっています。
2014年8月にドイツ製品安全委員会(German AfPS)はAfPS GS2014:01PAK により、GS認証におけるPAHsの評価と試験に関する新しい要求事項を定めました。ZEK 01.4-08からの主要な変更は物質に関する基準の設定とカテゴリの修正になります。
2019年5月にドイツ製品安全委員会(German AfPS)はAfPS GS2019:01PAK により新基準を発行しました。AfPS GS2014:01PAKからの主要な変更は子ども向け製品に対する要求事項の厳格化と測定成分リストの改訂(18成分→15成分)になります。
この改正は2020年7月1日から適用されます。
AfPS GS2019:01PAK により定められたPAHsに関する要求事項の一覧を表にまとめます。
表 2019年5月15日修正によるAfPSによるGSラベル認証のためのPAHsに関する要求事項
化学物質名 | CAS 番号 | 規制値 (mg/kg) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
カテゴリー 1 | カテゴリー 2 | カテゴリー 3 | ||||
口に入れること やしっかりと 長時間(30秒超) 肌に触れる 玩具中の材料 |
カテゴリー1に含まれないもので、 予見可能な肌への接触が30秒を 超え(長時間の肌接触)、または 繰り返し短時間肌に接触する材料 |
カテゴリー1または2に含まれ ないもので、30秒以内の肌の 接触(短時間の肌接触)が予見 可能な材料 |
||||
カテゴリー2a 子どもが使用 |
カテゴリー2b その他 |
カテゴリー3a 子どもが使用 |
カテゴリー3b その他 |
|||
ベンゾ[a] ピレン | 50-32-8 | < 0.2 | < 0.2 | < 0.5 | < 0.5 | < 1 |
ベンゾ[e]ピレン | 192-97-2 | < 0.2 | < 0.2 | < 0.5 | < 0.5 | < 1 |
ベンゾ[a]アントラセン | 56-55-3 | < 0.2 | < 0.2 | < 0.5 | < 0.5 | < 1 |
ベンゾ[b]フルオランテン | 205-99-2 | < 0.2 | < 0.2 | < 0.5 | < 0.5 | < 1 |
ベンゾ[j]フルオランテン | 205-82-3 | < 0.2 | < 0.2 | < 0.5 | < 0.5 | < 1 |
ベンゾ[k]フルオランテン | 207-08-9 | < 0.2 | < 0.2 | < 0.5 | < 0.5 | < 1 |
クリセン | 218-01-9 | < 0.2 | < 0.2 | < 0.5 | < 0.5 | < 1 |
ジベンゾ[a,h]アントラセン | 53-70-3 | < 0.2 | < 0.2 | < 0.5 | < 0.5 | < 1 |
ベンゾ[g,h,i]ペリレン | 191-24-2 | < 0.2 | < 0.2 | < 0.5 | < 0.5 | < 1 |
インデノ[1,2,3-cd] ピレン | 193-39-5 | < 0.2 | < 0.2 | < 0.5 | < 0.5 | < 1 |
フェナントレン | 1985/1/8 | Sum: < 1 | Sum: < 5 | Sum: < 10 | Sum: < 20 | Sum: < 50 |
ピレン | 129-00-0 | |||||
アントラセン | 120-12-7 | |||||
フルオランテン | 206-44-0 | |||||
ナフタレン | 91-20-3 | < 1 | < 2 | < 10 | ||
上記 15種 PAHs合計 | < 1 | < 5 | < 10 | < 20 | < 50 |
なお、その他の規制として、EUにおけるREACH規則の付属書XVII(制限物質)に、PAHs8物質(ベンゾ[a]ピレン、、ベンゾ[e]ピレン、ベンゾ[a]アントラセン、クリセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[j]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ジベンゾ[a,h]アントラセン)が、高懸念物質(SVHC)の候補リストに、アントラセンが挙げられています。 また、米国環境保護局(EPA)はPAHs16物質(ナフタレン、アセナフチレン、アセナフテン、フルオレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、ピレン、クリセン、ベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、インデノ[1,2,3-cd]ピレン、ジベンゾ[a,h]アントラセン、ベンゾ[g,h,i]ペリレン)を優先汚染物質として指定し、規制の対象としています。
California Proposition 65でも、PAHs 9物質(ナフタレン、クリセン、ベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[j]フルオランテン、ベンゾ[a]ピレン、インデノ[1,2,3-cd]ピレン、ジベンゾ[a,h]アントラセン)が、発ガン性の有ることが知られている物質としてリストされています。
他に、EU(ECHA)及び米国(EPA)において、人工芝に含まれるPAHsの有害性についても報告されています。
- EU(ECHA):ANNEX XV RESTRICTION REPORT - PAHS IN SYNTHETIC TURF INFILL GRANULES AND MULCHES
https://www.echa.europa.eu/documents/10162/665f806c-1030-3eda-41fe-60bec298632 - 米国(EPA):Federal Research on Recycled Tire Crumb Used on Playing Fields
https://www.epa.gov/chemical-research/federal-research-recycled-tire-crumb-used-playing-fields
国内での規制
国内では「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」で、クレオソート油を含有する家庭用の木材防腐剤及び木材防虫剤、並びにクレオソート油及びその混合物で処理された家庭用の防腐木材及び防虫木材を対象とし、多環芳香族炭化水素類(PAHs)のうちジベンゾ[a,h]アントラセン、ベンゾ[a]アントラセン及びベンゾ[a]ピレンの3種類の含有量が規制されています。
基準値は以下の通りです。
種別 | 種別名 | 準備 |
---|---|---|
クレオソート油を含有する家庭用 木材防腐剤及び木材防虫剤 |
ジベンゾ[a,h]アントラセン ベンゾ[a]アントラセン ベンゾ[a]ピレン |
いずれも10ppm 以下 |
クレオソート油及びその混合物を 用いて処理された家庭用の防腐木材及び防虫木材 |
ジベンゾ[a,h]アントラセン ベンゾ[a]アントラセン ベンゾ[a]ピレン |
いずれも3ppm 以下 |
これらの規制に係る分析にも対応いたします。
分析・試験項目
構造
「PAHs(多環芳香族炭化水素)」の用語は、一般的に、炭素原子と水素原子により構成された複数のベンゼン骨格を基本構造とする化合物群の総称で、置換基のあるものを含めると何百種類もの物質が存在します。このうち、AfPS GS2014:01PAKで規制対象として指定されているのは以下の18種です。
物質名 | 構造式 | CAS番号 | 物質名 | 構造式 | CAS番号 |
---|---|---|---|---|---|
ナフタレン |
|
91-20-3 | アセナフチレン |
|
208-96-8 |
アセナフテン |
|
83-32-9 | フルオレン |
|
86-73-7 |
アントラセン |
|
120-12-7 | フェナントレン |
|
85-01-8 |
フルオランテン |
|
206-44-0 | ピレン |
|
129-00-0 |
ベンゾ[a]アントラエン |
|
56-55-3 | クリセン |
|
218-01-9 |
ベンゾ[b]フルオランテン |
|
205-99-2 | ベンゾ[k]フルオランテン |
|
207-08-9 |
ベンゾ[a]ピレン |
|
50-32-8 | ベンゾ[ghi]ペリレン |
|
191-24-2 |
インデノ[1,2,3-cd]ピレン |
|
193-39-5 | ジベンゾ[a,h]アントラセン |
|
53-70-3 |
ベンゾ[j]フルオランテン |
|
192-97-2 | ベンゾ[e]ピレン |
|
53-70-3 |
表 各種規制の対象物質リスト
No. | 物質名 | CAS番号 | US EPA 指定物質 |
REACH 制限物質 |
AfPS GS2019:01PAK | |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ナフタレン | Naphthalene | 91-20-3 | ○ | - | ○ |
2 | アセナフチレン | Acenaphthylene | 208-96-8 | ○ | - | (※) |
3 | アセナフテン | Acenaphthene | 83-32-9 | ○ | - | (※) |
4 | フルオレン | Fluorene | 86-73-7 | ○ | - | (※) |
5 | アントラセン | Anthracene | 120-12-7 | ○ | - | ○ |
6 | フェナントレン | Phenanthrene | 85-01-8 | ○ | - | ○ |
7 | フルオランテン | Fluoranthene | 206-44-0 | ○ | - | ○ |
8 | ピレン | Pyrene | 129-00-0 | ○ | - | ○ |
9 | ベンゾ[a]アントラセン | Benzo[a]anthracene | 56-55-3 | ○ | ○ | ○ |
10 | クリセン | Chrysene | 218-01-9 | ○ | ○ | ○ |
11 | ベンゾ[b]フルオランテン | Benzo[b]fluoranthene | 205-99-2 | ○ | ○ | ○ |
12 | ベンゾ[j]フルオランテン | Benzo[j]fluoranthene | 205-82-3 | - | ○ | ○ |
13 | ベンゾ[k]フルオランテン | Benzo[k]fluoranthene | 207-08-9 | ○ | ○ | ○ |
14 | ベンゾ[a]ピレン | Benzo[a]pyrene | 50-32-8 | ○ | ○ | ○ |
15 | ベンゾ[e]ピレン | Benzo[e]pyrene | 192-97-2 | - | ○ | ○ |
16 | ベンゾ[ghi]ペリレン | Benzo[ghi]perylene | 191-24-2 | ○ | - | ○ |
17 | インデノ[1,2,3-cd]ピレン | Indeno[1,2,3-cd]pyrene | 193-39-5 | ○ | - | ○ |
18 | ジベンゾ[a,h]アントラセン | Dibenz[a,h]anthracene | 53-70-3 | ○ | ○ | ○ |
物質数 | 16 | 8 | 15 |
(※)AfPS GS2014:01PAKでは対象(追加での報告が可能です)
特徴・用途
■PAHsを分析する際の留意点と当社の特徴
PAHsは何百種類もの物質が存在し、環境中にも多く検出される物質です。その中から対象となる成分を正確に分析するには、以下の点に留意する必要があります。
1. |
分析装置による目的成分の分離を徹底する事 対象成分と対象成分以外のPAHsには、わずかな違いしかない事が多く、精製などの前処理操作では除くことが出来ない事が殆どです。これら性質の似通った物質の分離は、分析装置に頼る他ありません。当社は下記の2つの方法を用いる事で優れた分離能力を有しています。
|
2. | 適切な内標準物質を使用する事
先に述べたように対象成分とその他PAHsの違いはわずかで、分析結果の同定作業も難しいのが実状です。AfPS GS2014:01PAKでは、対象成分のうち一部の内標準品添加で良く、しかも対象成分とは検出される位置がずれる重水素(D)体標識の化合物で良い事になっています。D体は安価ですが、同定に関しては誤判定につながる危険を持っています。当社では、対象成分との挙動が近い13C標識化合物を内標準物質として用いています。また、入手可能な限りの標準品(EPA16物質)を内標準物質として添加しています。コストはかかりますが、正確な同定が可能です。
|
3. | 各種試料からの抽出
分析される試料材質は多岐に渡り、それぞれ適切な方法は異なります。
当社では、RoHS指令などでの臭素系難燃剤分析で一万検体を超える多くの試料、多岐に渡る材質の経験があります。試料材質に最適な溶媒を用いた溶媒抽出法を基本とした分析法を構築しています。 → 臭素系難燃剤の分析についてはこちらへ >> |
関連情報
業務案内
研究実績
当社では、製品中のPAHsの分析法に関して様々な検討を行い、多くの知見を保有しています。
・岩田 直樹,中井 勉,嶽盛 公昭,井上 毅,高菅 卓三 (島津テクノリサーチ)
「製品中の多環芳香族炭化水素(PAHs)分析における分析上の課題と検討」第27回環境化学討論会(沖縄;2018)
発表要旨はこちらへ>>
20201211