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PAHs(多環芳香族炭化水素)の分析[環境試料]

概要

 PAHs(多環芳香族炭化水素)は、有機物の不完全燃焼や熱分解等で生成する化学物質で、発ガン性を有する事が知られており、 その毒性から国際的にも規制が厳しくなってきており、国内でも規制の動きが出ています。当社では、ダイオキシン類で培った技術を礎にPAHs分析を行っています。
 測定可能な媒体は、大気、環境水、排出ガス、作業環境などの環境試料から、燻製食品等の食品試料、廃油、工業原料や製品試料と多岐にわたります。 国内外の有識者とも技術交流を持ち、国内での排出ガス中のPAHs測定の公定法*策定にも携わっています。

* 「排出ガス中の多環芳香族炭化水素(PAHs)の測定方法マニュアル(平成23年3月 環境省水・大気環境局大気環境課)」
http://www.env.go.jp/air/osen/manual2/pdf-gas/pahs.pdf
グリーン調達対応として、ドイツのAfPS GS2014:01PAK(GSマーク認証のための多環芳香族炭化水素(PAHs)試験)等に準拠した製品中PAHsの分析も実施可能です。 → グリーン調達についてはこちら >>
また、食品中のPAHsの分析に関しても、特に問題となっている燻製食品(かつお節等)中のPAHsについて含有実態調査を受託するなど、豊富な実績があります。     → 食品試料中のPAHsの分析についてはこちら >>

 

構造

  「PAHs(多環芳香族炭化水素)」の用語は、一般的に、炭素原子と水素原子により構成された複数のベンゼン骨格を基本構造とする化合物群の総称で、置換基のあるものを含めると何百種類もの物質が存在します。
 このうち、米国EPA(米国環境保護局)で規制対象として指定されているUS EPA指定16物質は以下の16種となります。

物質名 構造式 CAS番号 物質名 構造式 CAS番号
ナフタレン
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91-20-3 アセナフチレン
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208-96-8
アセナフテン
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83-32-9 フルオレン
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86-73-7
アントラセン
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120-12-7 フェナントレン
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85-01-8
フルオランテン
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206-44-0 ピレン
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129-00-0
ベンゾ[a]アントラエン
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56-55-3 クリセン
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218-01-9
ベンゾ[b]フルオランテン
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205-99-2 ベンゾ[k]フルオランテン
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207-08-9
ベンゾ[a]ピレン
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50-32-8 ベンゾ[ghi]ペリレン
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191-24-2
インデノ[1,2,3-cd]ピレン
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193-39-5 ジベンゾ[a,h]アントラセン
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53-70-3

 

 各種環境媒体(大気、水質、土壌、底質、排ガス、排水中等)について、これらの16物質、及び、排ガス中の測定方法マニュアル※で測定対象とされている26物質や、 ニトロ基・メチル基等の置換基の付いた物質等、種々のPAHsの測定・分析が可能です。

※「排出ガス中の多環芳香族炭化水素(PAHs)の測定方法マニュアル(平成23年3月 環境省水・大気環境局大気環境課)」
 http://www.env.go.jp/air/osen/manual2/pdf-gas/pahs.pdf

 上記に関連する業務を受託し、マニュアルの策定をしました。
 対象物質はUS EPA指定16物質に、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン、シクロペンタ[cd]ピレン、5-メチルクリセン、ベンゾ[e]ピレン、 ベンゾ[j]フルオランテン、ジベンゾ[a,e]ピレン、ジベンゾ[a,h]ピレン、ジベンゾ[a,i]ピレン、ジベンゾ[a,l]ピレンを加えた26物質です。

背景

 PAHs(多環芳香族炭化水素)は、DDT等の農薬など目的を持って人為的に製造・使用されている化学物質とは異なり、主にダイオキシン類のように燃焼等により非意図的に生成する化学物質です。化石燃料の不完全燃焼や森林火災によって生成される可能性が指摘されています。
 PAHsの毒性については、発ガン性が古くから知られており、特にベンゾ[a]ピレンについては、World Health Organization(WHO)の一組織であるInternational Agency for Research on Cancer(IARC)の発ガン性分類への総合評価ではもっともランクの高いGroup1(発ガン性のあるもの)にランクづけられるなど、その健康影響が注目されています。

法規制・規格

<環境試料>

 日本では、平成18年に公表された「化学物質の環境リスク初期評価(第5次とりまとめ)」において、ベンゾ[a]ピレンが「詳細な評価を行う候補」とされました。また、「今後の有害大気汚染物質対策のあり方について(第九次答申)」(平成22年10月)において、ベンゾ[a]ピレンが有害大気汚染物質の優先取組物質の一つに指定されるとともに、ニトロ基やメチル基等の置換基のあるものも含め23物質のPAHsが有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質に選定されました。
 これらの物質については、今後、自主的な排出抑制が求められるなど取組が必要となります。
 海外においては、EUにおいて、2003年7月に大気質枠組み指令96/62/ECの見直しが行われ、大気中のPAHsの目標値(2012年までに1ng/m3)が示されています。その他、WHOによる飲料水に対するガイドラインにベンゾ(a)ピレンが取り上げられ規制値は飲料水で0.7μg/Lとなっています。
 また、US-EPA飲料水基準はベンゾ(a)ピレンで0.2μg/Lとなっています。

<作業環境>

 平成27年9月、「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」が厚生労働省より公布され、ナフタレンが、「化学物質による労働者の健康障害防止に関するリスク評価」の結果に基づき、発がんのおそれのある物質として特定化学物質障害予防規則の措置対象物質に追加されました(平成27年11月1日施行予定)。
 これにより、ナフタレンを含む製剤の製造や、これらを取り扱う業務を行う場合には、新たに、化学物質の発散を抑制するための設備の設置、作業環境測定の実施、特殊健康診断の実施、作業主任者の選任などが義務付けられ、作業環境測定や健康診断の結果、作業の記録などを30年間保存することが必要となります。
 

特徴・用途

■PAHsを分析する際の留意点と当社の特徴

 PAHsは何百種類もの物質が存在し、環境中にも多く検出される物質です。その中から対象となる成分を正確に測定を行うには、以下の点に留意する必要があります。

1.

分析装置による目的成分の分離を徹底する事

対象成分と対象成分以外のPAHsには、わずかな違いしかない事が多く、精製などの前処理操作では除くことが出来ない事が殆どです。これら性質の似通った物質の分離は、分析装置に頼る他ありません。当社は下記の2つの方法を用いる事で優れた分離能力を有しています。 

  • 高分解能GC-MSの使用: 汎用機である低分解能GC-MSに比べ、高い選択性と高感度を有しています。当社は全ての試料について用いています。
  • 複数のキャピラリーカラムによる分析: PAHsは単独のカラムによる測定だけでは、分離しきれない事があります。分離出来ていない状態での分析では、定量値を高く見積もるリスクが発生します。当社は、複数のカラム条件を把握しており、それらを組み合わせる事で最良の条件での測定を行っています。
2. 適切な内標準物質を使用する事
先に述べたように対象成分とその他PAHsの違いはわずかで、分析結果の同定作業も難しいのが実状です。AfPS GS2014:01PAKでは、対象成分のうち一部の内標準品添加で良く、しかも対象成分とは検出される位置がずれる重水素(D)体標識の化合物で良い事になっています。D体は安価ですが、同定に関しては誤判定につながる危険を持っています。当社では、対象成分との挙動が近い13C標識化合物を内標準物質として用いています。また、入手可能な限りの標準品(EPA16物質)を内標準物質として添加しています。コストはかかりますが、正確な同定が可能です。
3. ブランク値の低減
PAHsは環境中に多く存在する化合物です。そのため分析には注意を払わないとコンタミネーションを起こしやすい物質です。当社では、様々なブランク低減手法を取り入れて、必要とされる分析精度を確保しています。
4. その他注意事項
PAHsは一部不安定な物質があり、紫外線等で分解します。当社では、実験室内の蛍光灯は、すべてUVカット仕様の蛍光灯にしており、光分解が起こらないようにしています。また、PAHsは揮発性の高い化合物です。そのため濃縮工程でのロスが生じかねません。当社では、室温での窒素濃縮により非常に穏やかな濃縮を行っており、揮発によるロスを低減させています。また、多くの成分に内標準物質を添加しているので、状況把握も容易で、正確な定量が行えます。

分析・試験事例

■当社分析条件による分析クロマトの一例(標準品)は、こちらへ >>

関連情報

当社発表の関係技術内容

・第20回環境化学討論会(2011年熊本) 岩田直樹,木邑奈美,岡田淳,井上毅,高菅卓三:
 排出ガス中の多環芳香族炭化水素(PAHs)の測定法開発  詳細はこちらへ >>

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