概要
フタル酸エステル類関連規制
概要
樹脂製品等では、海外での製造や調達が盛んになり、仕様とは異なる添加剤が添加された樹脂材料が納入されるケースや、設計通りの性能を発揮しているかどうか確認できていない製品が出回ってしまうケースなどもあるようです。
RoHS、REACH・SVHC等に代表される有害物質、有害性が高く懸念される化学物質、シックハウス症候群の原因とされるVOC規制等、使用制限対象物質は増加し、規制・基準はより厳しくなっている昨今です。そのため、製品販売先の国々の法令を遵守できるよう化学物質を管理することは大変です。
フタル酸エステル類もその規制対象物質の一例で、主にポリ塩化ビニル(PVC)の可塑剤として使用されています。しかし、近年、フタル酸エステル類の人体への内分泌攪乱作用が懸念されるようになりました。
法規制・規格
<対象製品及び開始時期>
国内外問わず、フタル酸エステルに関する規制が施行されています。
No | 化合物名 | 略称 | CAS No. | CPSIA | REACH | CA/65 | ※ 改正 RoHS 指令 |
EU玩具指令 | 厚生労働省関連 | 化審法 関連 |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
XVII | XIV | 玩具 | 食品容 包装容器 |
|||||||||
制限対象物質 | 認可対象物質 | |||||||||||
1 | フタル酸ジ-2-エチルヘキシル | DEHP | 117-81-7 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
2 | フタル酸ジ-n-ブチル | DBP | 84-74-2 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||
3 | フタル酸ブチルベンジル | BBP | 85-68-7 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||
4 | フタル酸ジイソノニル | DINP | 28553-12-0 | ● | ● | ● | ● | ● | ||||
5 | フタル酸ジイソデシル | DIDP | 26761-40-0 | ●* | ● | ● | ● | ● | ||||
6 | フタル酸ジ-n-オクチル | DNOP | 117-84-0 | ●* | ● | ● | ● | |||||
7 | フタル酸ジペンチル | DPP | 131-18-0 | ○* | ● | |||||||
8 | フタル酸ジペンチル(直鎖・分岐) | DPP | 84777-06-0 | ● | ||||||||
9 | フタル酸ジヘキシル | DHP | 84-75-3 | ○* | ● | ● | ||||||
10 | フタル酸ジシクロヘキシル | DCHP | 84-61-7 | ○* | ||||||||
11 | フタル酸ジイソブチル | DIBP | 84-69-5 | ○* | ● | ● | ||||||
12 | フタル酸ジイソペンチル | DIPP | 605-50-5 | ● | ||||||||
13 | フタル酸ビス(2-メトキシエチル) | 117-82-8 | ● | |||||||||
14 | 1,2-ベンゼンジカルボン酸 炭素数7の側鎖炭化水素を主成分とする 炭素数6~8(分岐のみ)のフタル酸エステル類 |
DIHP | 71888-89-6 | ● | ||||||||
15 | 1,2-ベンゼンジカルボン酸 ジヘキシルエステル(分岐・直鎖) |
DIHP | 68515-50-4 | ● | ||||||||
16 | フタル酸n-ペンチルイソペンチル | 776297-69-9 | ● | |||||||||
17 | 1,2-ベンゼンジカルボン酸 炭素数7~11(分岐・直鎖)のフタル酸エステル類 フタル酸へプチルノニルウンデシル |
68515-42-4 | ● | |||||||||
18 | 1,2-ベンゼンジカルボン酸、ジ-C6~10-アルキルエステル; 1,2-ベンゼンジカルボン酸、デシル・ヘキシル・オクチルジエステルと0.3%以上のフタル酸ジへキシル(EC No. 201-559-5)との混合物 |
68515-51-5 68648-93-1 |
● | |||||||||
19 | テレフタル酸ジメチル | ● |
海外規制
(1)欧州規制関連
<RoHS2>
RoHS指令規制の改正案は2008年12月に欧州委員会から公表され、2011年に正式採択後、同年7月1日にEU官報にて公布、7月21日に施行されました。その結果、改正RoHS指令(2011/65/EU “RoHS2”)に置き換わりました。内容は、改正RoHS指令の制限物質6成分に4種のフタル酸エステルを追加されました。(指令(EU)2015/863 ANNEXとして追加)
詳しくは、「グリーン調達支援 RoHS2(改正RoHS)分析」をご覧ください。
<欧州指令2005/84/EC(おもちゃ)>
おもちゃで使用されている合成樹脂中フタル酸エステル6種類の規制が2007年1月より施行されました。
流通する全ての玩具・育児用品に対して、上限基準値合計0.1%を超えないこと
・ DNOP ・DINP ・DIDP
口に含む可能性のある玩具・育児用品に対して、上限基準値合計0.1%を超えないこと
<REACH規則>
REACH規則*は、2007年6月1日に発効された化学物質の総合的な登録、安全性評価、使用制限、使用認可を生産者に義務付ける化学物質管理規則です。 * Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals
REACHの付属書XVIIに記載されている物質は、一般に制限物質と呼ばれ、その製造、輸入、あるいは使用が制限されます。フタル酸エステル類の中にはここに挙げられているものもあります。(上表のREACH 制限対象物質)
また、REACHの付属書XIVに記載されている物質は一般に認可対象物質と呼ばれ、認可対象物質やそれを利用する調剤をEU域内にて製造または輸入したい場合は、欧州化学品庁ECHAへ申請し認可を受ける必要があります。フタル酸エステル類の中にはここに挙げられているものもあります。(上表のREACH 認可対象物質)
(参考情報) <EUにおける法体系>
・規則(Regulation) | : | 全加盟国に直接適用 例:REACH規則 |
・指令(Directive) | : | EU加盟国へは直接適用されず、国内法への置き換えが必要 例:WEEE指令やRoHS指令 |
・決定(Decision) | : | EU加盟国内の特定の国・企業・個人などに限定して宛てられる法令で、直接拘束 例:RoHS指令の適用除外追加の決定 |
・勧告(Recommendation) | : | 法的拘束力はないが、EU加盟国内での法令制定・改正などを促すもの 意見(Opinion):法的拘束力なし |
(2)米国規制関連
<CPSIA Section 108>
米国消費者製品安全委員会(CPSC)は、2009年2月からCPSIA(Consumer Product Safety Improvement Act of 2008)により、おもちゃで使用されている合成樹脂中フタル酸エステル6種類を規制しています。
詳しくは、「グリーン調達支援 CPSIA」をご覧ください。
<California Proposition 65>
California Proposition 65<正式名称: Proposition 65 Safe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986>は作業者や消費者が、がんまたは生殖毒性を引き起こすことがカリフォルニア州に知られている有害な化学物質に曝露される可能性がある場合、事業者が事前に警告(告知)することを義務付けている米国カリフォルニアの州法です。
事業者は製品等に警告ラベルを貼り付けるか、これらの化学物質に曝露されない、もしくは曝露されても安全なレベルであることを確認しておかなければなりません。
California Proposition 65におけるフタル酸エステル類規制への対処が難しい点として、曝露基準値が設定されているものの、含有基準値が定められいないため、もし含有されているのであれば、「曝露リスク評価を実施して安全性を確認しなければならない」という点にあります。
国内規制
<厚生労働省関連(玩具)>
- フタル酸エステル類の種類の追加
平成14年8月2日厚生労働省告示第267号にて、「フタル酸エステル2物質(DEHP、DINP)を原材料として用いたポリ塩化ビニルを主成分とする合成樹脂をおもちゃの原材料として用いてはならない」と定められました。
平成22年9月6日厚生労働省告示第336号にて、指定おもちゃに対して使用を禁止するフタル酸エステルの種類が6物質(DBP、BBP、DIDP、DNOPが追加) に拡大されました。(欧州指令2005/84/ECと同等の規制となりました)
この法律の施行日は平成23年9月6日で、おもちゃの国内製造年月日又は輸入年月日によって対応が異なります。 - 規制対象材料の拡大
平成20年に「食品衛生法施行規則の一部を改正する省令」(平成20年厚生労働省令第66号)及び「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件」(平成20年厚生労働省告示第153号)で、食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準の一部が改正されました。
この改正で、対象となる塗膜が、塩化ビニル樹脂塗料から塩化ビニル樹脂を含むすべての塗料及びコーティング材料から成る塗膜に拡大されました。また、「原材料としての塗料」の規格から「最終製品の一部としての塗膜」の規格に変更されています。 このことから、玩具の表面を鋭利な刃物で 削り取ることのできる塗膜も「可塑化された材料からなる部分」となり、フタル酸エステルに関する規制の対象となりました。
<厚生労働省関連(食品用器具・容器包装>
平成14年8月2日厚生労働省告示第267号にて、「油脂、脂肪性食品を含有する食品に接触する器具および容器包装には、フタル酸ジ-2-エチルヘキシルDEHPを含有するポリ塩化ビニルを主成分とする合成樹脂を使用してはならない」とされています。
<化審法関連>
平成21年5月20日改正化審法で「リスクが十分に低いと認められない化学物質」は優先評価化学物質として指定されることになりました。(旧化審法の第二種及び第三種監視化学物質)
フタル酸エステル類では平成23年4月1日にDEHPおよびテレフタル酸ジメチルが優先評価化学物質として指定されました。
今後、第二種特定化学物質に該当するかどうか検討される予定です。第二種特定化学物質となると「製造・輸入予定/実績数量等の届出」が必要となります。)
分析・試験項目
測定成分
当社は、RoHS2(改正RoHS)におけるフタル酸エステル類の測定が可能です。その他のフタル酸エステル類については別途ご相談ください。
● 分析手法の一例(CPSC-CH-C1001-09.3)
フタル酸エステル類は、非意図的な汚染や、誤検出が起こりやすい成分のため精度の高い分析が必要です。
特徴・用途
<当社の特長>
● 「溶媒溶解・抽出-GC/MS法」を行っており、これまで分析が困難だった鉱物油含有試料をはじめ、接着剤、印刷インクなど様々な試料についても対応可能です。 また、豊富な測定実績を生かし、未規制可塑剤との判別も可能です。
※アプリケーションズの「FTIR及びGC/MS法によるフタル酸エステルの分析」もご覧ください。