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排ガス中PFASと分解生成物の分析|EPA OTM-45・OTM-50

PFASを分解したあと、フッ素はどこへ行ったのか。

分解技術の性能は、親となるPFASが消えたかどうかだけでは決まりません。分解が途中で止まると、もとのPFASとは別の物質が生成し、その一部は排ガスとして大気へ出ていきます。当社は、米国環境保護庁(EPA)のOTM-451とOTM-502により、排ガス中のPFASと分解生成物を測定する体制を整備しています。

分解効率だけでは評価できない

PFAS含有物の分解処理では、分解除去効率(DRE:Destruction and Removal Efficiency)が性能指標として用いられます。投入したPFASのうち、どれだけが排ガスに残っていないかを示す値です。

2026年のレビュー論文は、この指標の限界を明確に述べています。DREが99.99%を超えていても、大気中への不完全分解生成物(PIDs:Products of Incomplete Destruction)の生成はDREでは評価できないというものです4。DREは親PFASの残存量を見る指標であり、その分解の過程で何が生成したかを見る指標ではないためです。
 

PIDs(不完全分解生成物)とは、PFASの分解処理の過程で生成する化合物を指します。CF₄、C₂F₆などの揮発性フッ素化合物、フッ素化アルカン・アルケン、TFAなどの超短鎖PFAS、さらに親とは別のPFASまでを含む広い概念です4


PFASの完全な分解とは、炭素−フッ素結合が切れ、フッ素がフッ化水素やフッ化物塩といった無機の形になることです。この状態まで到達すれば、フッ素は有機フッ素化合物としての性質を失います。しかし温度、滞留時間、混合、水素源、共存物質の条件が揃わない場合、分解は途中で止まります。

 

PFAS含有物を熱処理すると、完全に分解した場合はフッ化水素やフッ化物塩として無機化される。分解が途中で止まった場合は不完全分解生成物が生じ、CF4やC2F6などの揮発性フッ素化合物、TFAなどの超短鎖PFAS、未分解のPFASとして排ガスに出る


図1 分解の行き先。出典4に基づき当社で作図。

 

測る方法は、物質の性質で分かれる

排ガス中のフッ素化合物は、極性と揮発性によって性質が大きく異なり、ひとつの方法で網羅することができません。測定法は、この2軸に応じて次のように整理されています4

 

極性と揮発性の2軸で分けると、極性が高く半揮発性のPFOAやPFBSなどはOTM-45、極性が低く揮発性の高いCF4やC2F6はOTM-50、極性が低く半揮発性の長鎖フッ素化アルカンやアルケンはOTM-55が開発中、極性が高く揮発性の高いTFAやPFPrAなどの超短鎖PFASは標準的な方法がなくイオン交換クロマトグラフィー等による専用の分析が必要。OTM-45とOTM-50は当社で対応する


図2 極性と揮発性による測定法の対応。出典4に基づき当社で作図。

 

 

右上の超短鎖PFASには、排ガスを対象とした標準的な方法がありません。当社は、水試料中のTFAについてイオン交換クロマトグラフィー等を用いたLC-MS分析に対応していますが、排ガスについては、測定可能と確認できた採取手法が現時点でないため、対応の可否を含めて個別にご相談ください。

 

OTM-45とOTM-50は、対象も、採取の仕組みも、現場とラボの負荷も異なります。

 表1 OTM-45とOTM-50の比較。濃度域とラボ処理時間は、スウェーデンの実焼却施設4か所での運用評価による5

  OTM-45 OTM-50
対象 半揮発性・極性のPFAS 約50物質
PFOA・PFOS・PFBSなど1
揮発性・非極性のフッ素化合物 30物質
C1〜C8、沸点おおむね100℃未満2
採取 加熱プローブ、フィルター、XAD-2、インピンジャーによる多段捕集 ガス試料を不動態化ステンレスキャニスターに直接採取
分析 抽出・固相抽出・濃縮の後、LC-MS/MS 熱脱着GC/MS(前濃縮あり)
作業現場 ガラス器具、加熱・冷却系、溶媒、リンス操作が多い5 キャニスター接続が中心で、比較的単純5
ラボ処理 試料あたり 3〜4日5 試料あたり 約1日5
実測温度の例 多くは 1 ng/Nm3 未満5 数十〜数百 µg/Nm3
ただし主成分はPFAS以外の物質5

OTM-50の30物質は、別の条約の物質でもある

OTM-50の対象は30物質です2。PFASの不完全分解生成物の候補であると同時に、冷媒・発泡剤・工業化学品として使われてきた物質群でもあります5。実際、対象30物質を整理すると、そのほとんどがオゾン層破壊物質または温室効果ガスとして国際的な規制の枠組みに置かれています。

内訳は次のとおりです。モントリオール議定書の附属書A・B・Cに掲げられた特定物質が3物質。温室効果ガスのPFCまたはHFCに分類される物質が24物質で、そのうち6物質はキガリ改正の附属書Fに掲げられ、国内でもオゾン層保護法の規制対象です。残る3物質は、ヘキサフルオロプロピレンオキシド(HFPO)とフッ素化エーテル2物質で、いずれの附属書にも掲げられていません。

 

表2 系統・ODP・GWP₁₀₀は社内で整理した資料による

物質 系統 ODP GWP₁₀₀ キガリ換算係数 議定書上の位置づけ
ペルフルオロカーボン(PFC)系
Carbon tetrafluoride
CF₄
PFC-14 0 6,630 京都 PFC
Hexafluoroethane
C₂F₆
PFC-116 0 11,100 京都 PFC
Tetrafluoroethene
C₂F₄
不飽和PFC 0 0.004 京都 PFC
Octafluoropropane
C₃F₈
PFC-218 0 8,900 京都 PFC
Hexafluoropropene
C₃F₆
不飽和PFC 0 0.05 京都 PFC
Decafluorobutane
C₄F₁₀
PFC 0 9,200 京都 PFC
Dodecafluoropentane
C₅F₁₂
PFC 0 8,550 京都 PFC
Tetradecafluorohexane
C₆F₁₄
PFC 0 7,910 京都 PFC
Hexadecafluoroheptane
C₇F₁₆
PFC 0 7,820 京都 PFC
Octadecafluorooctane
C₈F₁₈
PFC 0 7,620 京都 PFC
Octafluorocyclobutane
c-C₄F₈
PFC-C318 0 9,540 京都 PFC
Octafluorocyclopentene
c-C₅F₈
不飽和PFC 0 1.97 京都 PFC
ハイドロフルオロカーボン(HFC)系
Trifluoromethane
HFC-23
HFC 0 12,400 14,800 キガリ F-II 京都 HFC
Difluoromethane
HFC-32
HFC 0 677 675 キガリ F-I 京都 HFC
Fluoromethane
HFC-41
HFC 0 116 92 キガリ F-I 京都 HFC
Pentafluoroethane
HFC-125
HFC 0 3,170 3,500 キガリ F-I 京都 HFC
1,1,1,2-Tetrafluoroethane
HFC-134a
HFC 0 1,300 1,430 キガリ F-I 京都 HFC
1,1,1-Trifluoroethane
HFC-143a
HFC 0 4,800 4,470 キガリ F-I 京都 HFC
1H-Heptafluoropropane
HFC-227ca
HFC 0 2,640 京都 HFC
1H-Nonafluorobutane
HFC-329p
HFC 0 2,360 京都 HFC
1H-Perfluoropentane
C₅HF₁₁
HFC系 0 3,700 † 京都 HFC
1H-Perfluorohexane
C₆HF₁₃
HFC系 0 3,700 † 京都 HFC
1H-Perfluoroheptane
C₇HF₁₅
HFC系 0 3,700 † 京都 HFC
1H-Perfluorooctane
C₈HF₁₇
HFC系 0 3,700 † 京都 HFC
オゾン層破壊物質(CFC・HCFC)
Trichlorofluoromethane
CFC-11
CFC 1.0 4,660 モントリオール A-I
Chlorotrifluoromethane
CFC-13
CFC 1.0 13,900 モントリオール B-I
Chlorodifluoromethane
HCFC-22
HCFC 0.055 1,760 モントリオール C-I
議定書の附属書に掲げられていない物質
Hexafluoropropene oxide
HFPO
完全フッ素化エーテル 0 10,000 † 該当なし
Fluoroether E-1
C₅HF₁₁O
HFE 0 6,490 該当なし
Fluoroether E-2
C₈HF₁₇O₂
フッ素化エーテル 0 2,000 † 該当なし

モントリオール モントリオール議定書の附属書A・B・Cに掲げられた特定物質。国内ではオゾン層保護法により製造・輸入が規制されています6
キガリ 2016年のキガリ改正で附属書Fに追加されたHFC。国内では2018年のオゾン層保護法改正により「特定物質代替物質」として指定され、2019年1月1日から製造・輸入規制の対象です6。附属書Fの換算係数を併記しています。
京都 PFC・HFC 京都議定書で対象とされた温室効果ガスのうち、PFCまたはHFCに分類される物質。
該当なし 上記いずれの附属書にも掲げられていない物質。

†を付した値は概算値です。GWP₁₀₀はIPCC評価報告書の版によって値が異なるため、他の資料と比較する際は基準とした版をご確認ください。キガリ換算係数は、キガリ改正の附属書Fに定められた、生産量・消費量の削減義務を二酸化炭素換算で算定するための値です。GWP₁₀₀とは別系列の値であり、両者は一致しません。

 

 

検出されても、分解生成物とは限らない

OTM-50の対象物質は、冷媒・発泡剤・工業化学品としても使われてきました。廃棄物にこれらが混入していれば、分解によらず排ガスから検出されます。

実際、スウェーデンの実焼却施設での測定では、最も高く検出されたのはHCFC-22(最大190 µg/Nm3)とCFC-11でした。報告書は、廃棄物中のレガシー発泡剤・冷媒、排ガス流路内での生成、バックグラウンドなどを候補として挙げていますが、由来の特定には至っていないとしています5

OTM-50の結果を分解性能の評価に用いるには、処理前後の比較、投入物の組成、ブランクをあわせて設計する必要があるでしょう

 

分解技術ごとに、PIDsは異なる

PFASの分解技術には、有害廃棄物焼却、熱分解・ガス化、セメントキルン、活性炭の熱再生、水熱アルカリ処理、超臨界水酸化、プラズマなどがあります。技術ごとに、論点となる生成物は異なります4

 

 

つまり、どの技術を選ぶかによって、確認すべき物質と、そのための分析法の組み合わせが変わります。分解技術を導入・評価する立場からは、技術ごとに「何が出て、何が出ないか」を測定値で埋めた一覧が必要になります。当社は、その一覧を埋めるための分析を提供します。
 

導入を検討している技術、処理対象、確認したい範囲をうかがい、OTM-45・OTM-50・総フッ素・個別PFASの組み合わせをご提案します分析のご相談・お見積り

実務上の論点

OTM-45・OTM-50は、装置と標準品を揃えれば運用できる方法ではありません。文献が指摘している主要な論点は次の4点です。

  1. CF4の保持とCO2・水分等のマトリクス対策を両立させる条件設計が必要
    焼却炉の排ガスはCO₂と水分が多く、CF₄を保持するために前濃縮トラップを冷却すると、CO₂も大量に捕集されて対象物質の定量を妨害します。同一試料でも、CO₂の除去が不十分な条件ではC₂F₆が5.11 ppbv、十分な条件では11.6 ppbvとなり、126%の差が生じた報告があります3。条件が不適切だと、処理性能を過大評価する方向に誤差が出ます。
     
  2. OTM-45では、PFASの多くが吸着剤ではなく器具表面から回収される
    実施設での運用評価では、捕集トレイン表面のリンスから全PFASの約60%が回収され、一次XAD-2吸着剤の寄与は1%未満でした5。リンスの手順が測定値そのものを左右します。
     
  3. ラボによって、定量できる物質数が大きく異なる
    同一の方法で5つのラボが比較試験を行ったところ、定量の判定基準を満たしたPFASの数は9〜39物質と幅がありました7。対象リストに載っていることと、その物質を同じ信頼度で定量できることは別です。
     
  4. 単発・単点の採取では、代表値になりにくい
    2〜4時間の単点採取では、排ガス中PFASの時間変動・空間偏在を平均化できません。同じ施設でOTM-45とEN 1948-1改変法を比較したところ、比が最大約100倍、しかも施設によって大小が逆転しました。報告書は、これを方法差ではなく排ガス流路内での濃度の偏在によるものと見ています5

ターゲット分析だけでは閉じない

OTM-45・OTM-50はいずれも、あらかじめ定めた物質を測るターゲット分析です。標準品のない未知の生成物は、対象外となります。

レビュー論文は、ターゲット法の見落としを評価するために、総ガス状フッ素やTOF、EOF・AOFといった総量の測定、および高分解能質量分析によるノンターゲット分析を組み合わせるべきだとしています4対象物質がすべて不検出でも、総有機フッ素が高ければ、未知の生成物が残っている可能性があります。

 

出典・参考資料

  1. U.S. Environmental Protection Agency. Other Test Method 45 (OTM-45): Measurement of Selected Per- and Polyfluorinated Alkyl Substances from Stationary Sources. Office of Air Quality Planning and Standards. 排ガス中の半揮発性・極性PFASを対象とする方法。加熱プローブ、フィルター、XAD-2、インピンジャーで捕集し、LC-MS/MSで定量する。Other Test Methodであり、正式に制定された基準法ではない。
  2. U.S. Environmental Protection Agency. Other Test Method 50 (OTM-50): Sampling and Analysis of Volatile Fluorinated Compounds from Stationary Sources Using Passivated Stainless-Steel Canisters. Revision 0, 14 January 2025. Measurement Technology Group, Office of Air Quality Planning and Standards. 固定発生源の排ガス中の揮発性・非極性フッ素化合物30物質を対象とする方法。不動態化ステンレスキャニスターにガス試料を直接採取し、TD-GC/MSで定量する。対象はC1〜C8、沸点おおむね100℃未満。PFASに限定した方法ではなく、性能基準型の方法として公開されている。
  3. Wallace MAG, Jackson SR, Preston WT, Miles L, Calder H, Davies S, Cumbes M. Overcoming analytical challenges of Other Test Method 50: Analysis of volatile fluorinated compounds in passivated canisters from stationary source emissions. Journal of Chromatography A 2025, 1759, 466226. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40753841/ OTM-50の分析条件を検討した論文。トラップ温度を−100℃まで下げるとCF₄の保持は改善するが、CO₂も過剰に捕集され定量が悪化する。実用解として、CF₄とfluoromethaneは20 mL注入・1分パージ、他28物質は200 mL注入・9分パージの二条件を採用。CO₂の除去が不十分な条件でC₂F₆が過小評価された実例を示す。30物質のMDLは0.005〜0.339 ppbv。
  4. Silsby:Silsby S, et al. Air emissions during destruction of PFAS-containing materials. Nature Reviews Earth & Environment. 2026;7:181–198. DOI: 10.1038/s43017-025-00755-x PFASの分解技術からの大気排出とPIDsに関するレビュー。DREが99.99%を超えていてもPIDsの生成はDREでは評価できないと述べる。PIDsを極性と揮発性の2軸で整理し、OTM-45・OTM-50・開発中のOTM-55・超短鎖PFASの分析上の空白を対応づけている。ターゲット分析に加え、総ガス状フッ素の測定とノンターゲット分析の併用を提言。
  5. IVL Swedish Environmental Research Institute. Assessing PFAS flue gas sampling standards in operation: A comparison of EN 1948:1, OTM-45, and insights from OTM-50. Report B11109, 2025. スウェーデンの実焼却施設4か所での運用評価。OTM-50対象物質は数十〜数百 µg/Nm³で、主成分はHCFC-22(最大190 µg/Nm³)とCFC-11。OTM-45等で測る極性PFASは多くが1 ng/Nm³未満。OTM-45ではトレイン表面リンスから全PFASの約60%が回収され、一次XAD-2の寄与は1%未満。ラボ処理時間はOTM-50が約1日、抽出を伴う方法が3〜4日。2〜4時間の単点採取では代表値になりにくいと指摘。
  6. 環境省・経済産業省「フロン排出抑制法の概要」ほか。 オゾン層保護法は、モントリオール議定書に基づく特定フロン(CFC・HCFC)および代替フロン(HFC)の生産量・消費量の削減のため、製造・輸入を規制する。HFCは2016年のキガリ改正を受け、2018年の法改正により「特定物質代替物質」として政令で指定され、2019年1月1日から規制対象に追加された。日本は2018年12月にキガリ改正を受諾している。
  7. Hofman:Hofman J, et al. Quantification of per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS) in air emissions: An interlaboratory comparison. Chemosphere. 2025;380:144449. DOI: 10.1016/j.chemosphere.2025.144449 OTM-45系の排ガスPFAS測定について、5ラボが模擬ダクトで実施した比較試験。定量の判定基準を満たしたPFASの数はラボにより9〜39物質と幅があった。水相では炭素鎖長が増すほど回収率が低下し、長鎖PFASのガラス器具への吸着が課題であることを示す。

本ページは公開文献に基づく解説を目的としたものです。OTM-45およびOTM-50は米国環境保護庁のOther Test Methodであり、正式に制定された基準法ではありません。国内において、排ガス中のPFASおよび揮発性フッ素化合物に係る公定法や基準値は、本稿の時点では定められていません。記載した濃度・回収率・定量下限は、いずれも引用した文献における報告値であり、当社の測定における仕様値ではありません。表2の系統・ODP・GWP₁₀₀は社内で整理した資料によるものであり、GWP₁₀₀はIPCC評価報告書の版によって値が異なります。物質の議定書上の位置づけは当社が整理したものです。実際の分析における対象物質・定量下限・必要試料量は、試料および測定条件により異なります。

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