概要
WHOが選定した18のPFAS|2027年の規範値策定に向けて
概要
2026年7月30日、世界保健機関(WHO)が Key ingested per- and poly-fluoroalkyl substances (PFAS) and their health effects: landscape review(経口摂取される主要なPFASとその健康影響:ランドスケープレビュー)と題する45ページの技術文書を公表しました1。
報告書は、18のPFASと6つの健康影響カテゴリを、詳細な評価の対象として推奨しています1。
WHOはこの18物質と6カテゴリについて、体系的なエビデンス収集とレビューを開始しています。その目的は、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)とWHO飲料水水質ガイドライン専門家グループによる評価を支え、2027年にWHOの規範値(normative values)を確立することとされています2。
優先順位付けが行われた背景
WHOは、飲料水や食品を通じたPFASへのヒト曝露に対する公衆衛生上の懸念が高まっていること、そして近年各国・各機関が公表または提案してきたガイダンス値が、対象に含めるPFAS・用いた手法・その他さまざまな要因によって大きくばらついていることを問題として挙げています2。
WHOは、各国・地域の当局が採用・利用できる、経口摂取される主要なPFASについての権威ある健康影響ベースの値を整備する必要があるとしています2。
一方で、PFASは1万種を超えるとされ、そのうち何らかの健康影響データが得られている物質の数も、報告される健康影響の種類も、年々増え続けています。評価すべき物質と健康影響の組み合わせが拡大し続けるなかで、すべての経口摂取PFASとすべての健康影響を評価することは正当化も実行もできないとWHOは述べ、2026年内にエビデンスレビューを完了させるために優先順位付けの工程を設けたと説明しています2。
ランドスケープレビューとは、ある分野に存在する情報の全体像を体系的に把握し、その分布や偏りを見渡すための調査を指します。個別の物質の毒性を判定するものではなく、次に詳細な評価を行う対象を決めるための工程にあたります。
選定の方法
WHOは、環境中の存在量、ヒトバイオモニタリング研究、健康影響という3方面のデータ源を統合し、包括的なデータベースを構築しました。その結果、存在量のエビデンスから77物質、健康影響のエビデンスから66物質が特定されています1。
存在量の側は、飲料水・食品・ヒトバイオモニタリングという、経口摂取に直結する媒体に絞られています3。そのうえで、物質と健康影響カテゴリを順位付けするための枠組みが開発され、18物質・6カテゴリへの絞り込みが行われました1。
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77 物質
存在量のエビデンスから特定されたPFAS
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66 物質
健康影響のエビデンスから特定されたPFAS
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18 物質
詳細評価の対象として優先されたPFAS
6つの健康影響カテゴリは、がん・発達・肝臓・免疫・代謝・生殖です1。
18物質の一覧
18物質のうち16物質は存在量データの評価に基づいて選ばれ、残る2物質(HFPO-DAとTFA)は追加考慮の対象とされました1。TFAが加えられた経緯は後述します。
右端の欄は、当社が日本国内の制度上の位置づけを整理したものです。
| 略号 | 物質名 | 炭素数 | 日本での位置づけ |
|---|---|---|---|
| PFOS | ペルフルオロオクタンスルホン酸 perfluorooctanesulfonic acid |
C8 | 水質基準項目 化審法 第一種 |
| PFOA | ペルフルオロオクタン酸 perfluorooctanoic acid |
C8 | 水質基準項目 化審法 第一種 |
| PFHxS | ペルフルオロヘキサンスルホン酸 perfluorohexanesulfonic acid |
C6 | 要検討PFAS 化審法 第一種 |
| PFBS | ペルフルオロブタンスルホン酸 perfluorobutanesulfonic acid |
C4 | 要検討PFAS |
| PFBA | ペルフルオロブタン酸 perfluorobutanoic acid |
C4 | 要検討PFAS |
| PFPeA | ペルフルオロペンタン酸 perfluoropentanoic acid |
C5 | 要検討PFAS |
| PFHxA | ペルフルオロヘキサン酸 perfluorohexanoic acid |
C6 | 要検討PFAS |
| PFHpA | ペルフルオロヘプタン酸 perfluoroheptanoic acid |
C7 | 要検討PFAS |
| HFPO-DA | ヘキサフルオロプロピレンオキシドダイマー酸(GenX) perfluoro(2-propoxypropanoic acid) |
— | 要検討PFAS |
| PFNA | ペルフルオロノナン酸 perfluorononanoic acid |
C9 | 要検討PFAS 化審法 LC-PFCA |
| PFDA | ペルフルオロデカン酸 perfluorodecanoic acid |
C10 | 化審法 LC-PFCA |
| PFUnDA | ペルフルオロウンデカン酸 perfluoroundecanoic acid |
C11 | 化審法 LC-PFCA |
| PFDoA | ペルフルオロドデカン酸 perfluorododecanoic acid |
C12 | 化審法 LC-PFCA |
| PFTrDA | ペルフルオロトリデカン酸 perfluorotridecanoic acid |
C13 | 化審法 LC-PFCA |
| PFTeDA | ペルフルオロテトラデカン酸 perfluorotetradecanoic acid |
C14 | 化審法 LC-PFCA |
| PFHpS | ペルフルオロヘプタンスルホン酸 perfluoroheptanesulfonic acid |
C7 | 位置づけなし |
| PFDS | ペルフルオロデカンスルホン酸 perfluorodecanesulfonic acid |
C10 | 位置づけなし |
| TFA | トリフルオロ酢酸 trifluoroacetic acid |
C2 | 位置づけなし |
水質基準項目 水道法。PFOS・PFOAの合計で50 ng/L。2026年4月1日から検査と基準遵守が義務4。
要検討PFAS 水道法の要検討項目。目標値は設定されていません4。
化審法 第一種/LC-PFCA 第一種特定化学物質。製造・輸入が原則禁止。LC-PFCA(炭素数9〜21)は2026年11月22日施行5。
位置づけなし 上記いずれの枠組みにも含まれていません。
日本の水道法の枠組みとの対応
水道法の枠組みで日本が対象としている10物質、すなわち水質基準項目の2物質と要検討PFASの8物質は、いずれもWHOの18物質に含まれます1,4。差分は8物質です。
図1 WHOの18物質と、日本の制度上の位置づけ。PFNAは要検討PFASであると同時にLC-PFCAにも該当するため、図では要検討PFAS側に配置しています。
差分8物質の内訳
枠組みの外にある8物質のうち5物質(PFDA・PFUnDA・PFDoA・PFTrDA・PFTeDA)は炭素数が10〜14であり、2026年11月22日に化審法の第一種特定化学物質となるLC-PFCA(長鎖ペルフルオロカルボン酸、炭素数9〜21)の範囲に含まれます5。
これらの物質は、化審法により製造・輸入が原則禁止となる一方、水道水や食品における検出状況を継続的に把握する枠組みは設けられていません4,5。
残る3物質のうち、PFHpSとPFDSはペルフルオロアルカンスルホン酸で、水道法・化審法のいずれにも位置づけがありません。3物質目がTFAです。
TFAはなぜ入ったのか
TFA(トリフルオロ酢酸)は炭素数2のPFASです。今回の順位付けでは存在量で61位、健康影響で35位でしたが、優先対象に加えられています1。
WHOは理由を2点挙げています。1点目は、環境中に広く存在することの確認が進んでおり、多様な発生源からの分解生成物として存在していることです1。2点目は、順位そのものの解釈に関わる点です。
順位の低さについてのWHOの説明
WHOは、TFAの順位の低さは文献検索戦略の結果である可能性が高いと述べています。検索戦略はデータ源に含まれるPFASをすべて拾うよう設計されていたものの、TFAはPFASの定義に含まれないことが多いため、多くのデータ源がTFAをPFASとして扱っていなかったというのがその理由です1。
順位の低さを、環境中の存在量そのものではなく、集計対象の定義に帰する説明です。WHOはこの制約を明記したうえで、TFAを優先対象に加えています1。
TFAが従来のPFAS一斉分析で捉えにくい理由と、専用の分析法が必要となる理由は、別ページで解説しています。
一番小さいPFAS「TFA(トリフルオロ酢酸)」とは
本レビューは毒性評価ではありません
今回のランドスケープレビューは優先順位付けを目的とした作業であり、健康リスクの評価ではありません1。18物質は詳細評価の対象として推奨されたものであり、有害性の程度が判定されたものではありません。
順位付けは、存在量および健康影響に関するデータの蓄積状況に基づいて行われています1。TFAの例のとおり、データの収集範囲が順位に影響します。
2027年に規範値を確立することは、WHOが示している予定です2。
2027年までの工程
WHOは18物質・6カテゴリについての体系的なエビデンス収集とレビューを開始しています2。データ提出の受付は2026年7月31日に締め切られ、委託した文献検索の対象期間は2026年1月22日までとされています2。
図2 WHOの作業の流れ。出典2に基づき当社で作図
評価はJECFAとWHO飲料水水質ガイドライン専門家グループの2つに引き継がれます2。前者は食品、後者は飲料水を所管しており、日本の制度では、それぞれ内閣府食品安全委員会の耐容一日摂取量(TDI)と、水道法の水質基準・要検討項目に対応する領域です。
要検討PFASの8物質には、現時点で目標値が設定されていません4。WHOは、健康影響ベースの値を各国・地域の当局が採用・利用できる形で整備するとしています2。
分析上の論点
当社のPFAS MANIA(107種の多項目分析)は、18物質のうち17物質を対象に含んでいます。含まれないのはTFAで、これは炭素数が少なく逆相カラムに保持されないため、LC-MS/MSによる一斉分析の対象外となるものです。TFAについてはイオン交換クロマトグラフィー等を用いた専用の分析で対応しています。
107種の一斉分析とTFAの専用分析を組み合わせることで、18物質すべてに対応します。
測定結果の比較について
測定が可能であることと、その結果を他機関の値や将来の基準値と比較できることは、別の条件によります。PFASの分析には国内外に複数の方法があり、対象物質・前処理・定量下限が方法によって異なります。
当社は、どの方法に基づき、どの物質を対象としたかを報告書に明記しています。他機関の測定結果や既報値と比べる際は、分析法・対象物質・定量下限をあわせてご確認ください。
経時変化を追う場合も同様です。将来の基準値との比較を見込んで測定を始める場合、途中で分析法や対象物質を変更すると、それ以前のデータと接続できません。測定項目と定量下限を先に定め、同じ条件で繰り返すことが前提となります。
いまの測定項目を18物質に広げるべきか、どの試料から着手するか。目的と試料の性状をうかがったうえで、必要な対象物質と定量下限をご提案します。
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出典・参考資料
- World Health Organization. Key ingested per- and poly-fluoroalkyl substances (PFAS) and their health effects: landscape review. Geneva: WHO; 30 July 2026. 45 p. ISBN 978-92-4-012310-6. https://www.who.int/publications/i/item/9789240123106 WHOが委託したランドスケープレビューの概要報告書。存在量のエビデンスから77物質、健康影響のエビデンスから66物質を特定し、順位付けの枠組みを開発したうえで、18物質と6つの健康影響カテゴリを詳細評価の対象として推奨。TFAとHFPO-DAは追加考慮の対象とされ、TFAは存在量61位・健康影響35位ながら、環境中への広範な存在と、多くのデータ源がTFAをPFASに含めていないという文献検索戦略の制約を理由に優先された。存在量・健康影響の各データベースは補足表として公開されている。CC BY-NC-SA 3.0 IGO。
- World Health Organization. Request for data on PFAS. 6 February 2026. https://www.who.int/news-room/articles-detail/request-for-data-on-pfas 18物質・6カテゴリの一覧と、作業の目的・工程を示すデータ提出の募集。各国のガイダンス値のばらつきを背景として、権威ある健康影響ベースの値の必要性を述べる。JECFAおよびWHO飲料水水質ガイドライン専門家グループによる評価を支え、2027年にWHO規範値を確立することを目的とすると明記。データ提出の締切は2026年7月31日、委託した文献検索の対象期間は2026年1月22日まで。すべての経口摂取PFASと全健康影響の評価は正当化も実行もできないため優先順位付けを行った旨を記載。
- WHO. Assessing the occurrence and human health risk of per- and polyfluoroalkyl substances. https://www.who.int/activities/assessing-the-occurrence-and-human-health-risk-of-per--and-polyfluoroalkyl-substances WHOのPFAS関連活動のページ。上記1・2の位置づけと関連文書を掲載。
- 環境省「水質基準に関する省令の一部を改正する省令」及び「水道法施行規則の一部を改正する省令」の公布等について(2025年6月30日)。 PFOS・PFOAを水道水の水質基準項目に追加(2026年4月1日施行、基準値はPFOS・PFOAの合計で50 ng/L)。あわせてPFHxS・PFBS・PFBA・PFPeA・PFHxA・PFHpA・PFNA・HFPO-DAの8物質を「要検討PFAS」として要検討項目に位置づけ。目標値は設定されていない。
- 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律施行令の一部を改正する政令」(2026年5月19日閣議決定、同年5月22日公布)。 長鎖ペルフルオロアルカン酸(LC-PFCA、炭素数9〜21)とその塩およびLC-PFCA関連物質を第一種特定化学物質に指定。2026年11月22日施行。PFOS(2010年)、PFOA(2021年)、PFHxS(2024年)に続く指定。LC-PFCA関連物質の個別具体的な物質は三省省令で定められる。
本ページは一次情報に基づく解説を目的としたものです。WHOのランドスケープレビューは優先順位付けを目的としたものであり、個別物質の健康リスク評価ではありません。2027年の規範値の確立はWHOが示している予定であり、内容および時期は変更される場合があります。確定した基準値・指針値については、各当局の最新の一次情報をご確認ください。日本国内の制度上の位置づけは当社が整理したものです。実際の分析における定量下限は試料および装置構成により異なります。
2026/9/10 522