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第四話 単位のおはなし -その1-

2014年3月18日更新

コラム 教科書に載らない分析の話

第四話 単位のおはなし -その1-

 アベノミクス効果でこの一年、円安が進み日本経済に少しずつ活気が戻りつつあります。
新聞やTVの経済欄では毎日の外貨に対する円の値段が表示され、値動きが生じています。
特に海外旅行をされる方はその都度一喜一憂されているのではないかと思います。

世の権力者が国を手中に治めたとき、先ずなすべき事の一つに貨幣の統一と単位の制定がある言われています。
かの秦の始皇帝は万里の長城や兵馬俑などの建造物を建設したことで有名ですが、貨幣と単位の統一も推し進め国を治める基盤をつくりました。
 税の徴収や物の取引には統一された単位が不可欠です。そうでないと、前述の円と外貨との換算のように面倒な手間が生じ、計算ミスも生じかねません。ごまかす輩も出て来ます。
 日本でも戦前の尺貫法からメートル法に移行が進み、キログラムやメートルが一般的に使われるようになり、今では体重を貫や身長を尺で表現される方はほとんどいなくなりました。方や米国ではポンドやヤードが今でも使用されています。
ゴルフをされる方には「後何ヤード」と言われた方が「後何メートル」と言われるよりも判りやすいという方もおられるのではないでしょうか。

 さて、一般に科学で用いられる単位はSI単位とされ、1960年に開催された第11回国際度量衡総会(CGPM)の決議が元となっています。
日本では1974年からJISに取り入れられ、幾つかの段階を経て1995年にJISのSI化が完了しています。皆さんの回りにある装置や器具の中には表示されている単位が変更されている事にお気づきの方も多いと思います。
SI単位の構成は一言で言うと次のようになります。
  相互に独立した7種の基本量に与えられた単位が基本単位となり、基本量で構成される組立量に与えられた単位が組立単位として使われます。それぞれに接頭記号を付けて整数乗倍を表すようになっています。
まず基本単位とは何かを表1に示しました。

 

表1 SI単位の基本

基本量 名称 記号

長さ

メートル

m

質量

キログラム

kg

時間

s

電流

アンペア

A

熱力学温度

ケルビン

K

物質量

モル

mol

光度

カンデラ

cd

 

 CGS単位(センチメートル(cm)、グラム(g)、秒(s))での標記も慣習的に使用されていますが、SI単位ではMKS単位(メートル(m)、キログラム(kg)、秒(s))が推奨されています。

次に組立単位の例を表2に示します。

 

表2 SI組立単位の例

組立量 名称 記号

面積

平方メートル

m2

体積

立方メートル

m3

速度

メートル毎秒

m/s

加速度

メートル毎秒毎秒

m/s2

波数

毎メートル

m-1

質量密度

キログラム毎立方メートル

kg/m3

電流密度

アンペア毎平方メートル

A/m2

濃度

モル毎立方メートル

mol/m3

輝度

カンデラ毎平方メートル

cd/m2

 

組立単位の中には固有の名称を持ったものがあります。
これらを使って表現の利便性を図っています。代表的な事例を表3にまとめてみました。

 

表3 固有の名称を持つSI組立単位の例

組立量 名称 固有の記号 SI組立単位の記号

周波数

ヘルツ

Hz

s-1

ニュートン

m・kg・s-2

圧力、応力

パスカル

Pa

m-1・kg・s-2

エネルギー、熱量

ジュール

J

m2・kg・s-2

仕事率、工率

ワット

W

m2・kg・s-3

電荷、電気量

クーロン

C

A・s

電位、電位差

ボルト

V

m2・kg・s-3・A-1

電気抵抗

オーム

Ω

m2・kg・s-3・A-2

磁束

ウェーバ

Wb

m2・kg・s-2・A-1

セルシウス温度

セルシウス度

K

照度

ルックス

lx

m-2・cd・sr

注)  従来はSI補助単位であった平面角(ラジアン、rad)および立体角(ステラジアン、sr)は1995年に
SI組立単位に分類された。


 身の回りで使われる単位なので馴染みのあるものが多いと思います。これをSI単位で表現しようとするとかえって訳が判らなくなる場合があります。家電製品の定格電圧が100m2・kg・s-3・A-1と書かれても何のことかさっぱり判らなくなってしまいますが、100Vと言われると納得できますね。
天気予報でおなじみのmbar(ミリバール)は使われなくなりました。1barは、106dynの力が1cm2の面積に作用する時の圧力とCGS単位で定義されていましたが、SI単位の導入に合わせて廃止されました。
 1barは100000Paなので1mbarは100Paとなり、慣れのあるミリバール表示と桁数を合わせるために後述のSI接頭記号を使ったヘクトパスカル(hPa)が使用されているのはご存知の通りです。

 

表4 SI接頭記号

係数 接頭語 記号 係数 接頭語 記号

101

デカ

da

10-1

デシ

d

102

ヘクト

h

10-2

センチ

c

103

キロ

k

10-3

ミリ

m

106

メガ

M

10-6

マイクロ

μ

109

ギガ

G

10-9

ナノ

n

1012

テラ

T

10-12

ピコ

p

1015

ペタ

P

10-15

フェムト

f

1018

エクサ

E

10-18

アト

a

1021

ゼタ

Z

10-21

ゼプト

z

1024

ヨタ

Y

10-24

ヨクト

y

 

ちなみにデシリットル(dL)は小学校低学年で習うようですが、1dL=100mL(またはcc)と教わった記憶があります。SI単位を基準とするならば1dL=0.1Lと教えるべきでしょうが、小数の概念よりも生活に必要な単位について先に学ぶことになるため、102のイメージをやや強調するような感じがします。

 更に生活に欠かせないためSI単位と併用が認められているものに以下のような単位があります。

 

表5 SI単位と併用が認められている単位

名称 記号 SI単位での値

min

1 min = 60 s

時、時間

h

1 h = 60 min = 3600 s

d

1 d = 24 h = 86400 s

°

1° = (π/180) rad

分、平面角

1′ = (1/60)° = (π/10800) rad

1″ = (1/60)′ = (π/684000) rad

リットル

l (L)

1 L = 1 dm3 = 10-3 m3

トン

t

1 t = 103 kg

逆に馴染みがありながらSI単位と併用が認められないものに次のような単位があります。

 

 

表6 SI単位と併用が認められない単位

名称 記号 SI単位での値

トル

Torr

1 Torr =   (101325/760) Pa

標準空気

atm

1 atm = 101325 Pa

キログラム重

kgf

1 kgf = 9.80665 N

ミクロン

μ

1 μ = 1 μm = 10-6 m

カロリー

calth

1 calth = 4.184 J

ガンマ(質量)

γ

1 γ = 1 μg = 10-9 g

ラムダ

λ

1 λ = 1 μL = 10-9 L

 お判りになるように最近使われなくなった単位がたくさんあります。
分析や測定をしている装置や周辺機器・器具の中には、単位が変更されたものもあり戸惑った方もおられると思います。順次これらが更新、入れ替わっていく段階では、単位の異なった装置、器具が混在することになり、設定値を間違えたりする危険性があります。できるだけ早くこれらを更新される事をお勧めしますが、それが叶わない場合は、換算値を表示する、手順書等を書き換えるなどの対応が必要です。
 科学で用いられる単位は、科学技術の発展と共にある分野に属する人達が共通の認識を持たせるために創造されたものが多く、その分野の方々にとっては便利なものが多くあります。
 経済や文化のグローバル化が進み、科学も分野を超えた取り組みが進んでいます。共通の認識に立った議論を進めるためにも、単位の統一は避けて通れません。分析や測定のまとめは数字のまとめに他なりません。ここでミスをするとこれまで行ってきた分析や試験が水泡に帰してしまいます。

 次回は単位や数字のとりまとめの注意点について記述してみたいと考えています。

参考資料

(1) 日本規格協会編、SI化マニュアル-新計量法への適用、日本規格協会(1995)
(2) 山川正光著、トコトンやさしい単位の本、日刊工業新聞社(2002)