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島津テクノリサーチの極微量分析体制
教科書に載らない分析の話
第一話 分析装置に愛情を注ぎましょう 2013年12月17日更新
第ニ話 実験器具の取り扱いにも時代背景が 2014年1月20日更新
第三話 「未開封の試薬」は「新品」なの? 2014年2月14日更新
第四話 単位のおはなし -その1- 2014年3月18日更新
第五話 単位のおはなし -その2- 2014年4月17日更新

  「未開封の試薬」は「新品」なの?

機器分析において一般的に新しいものほど良いデータが取れると言うことは必ずしも当てはまらない事があります。
特にクロマトグラフィにおけるカラムはその典型です。
 エージング済みのカラムも販売されていますが、高感度で分析を行う際にはやはり事前のエージングは必須であるといえます。
ガラス器具などの実験器具もその中に含まれます。前もって洗浄や共洗いを行わないと汚染の原因を持ち込むことになります。サンプルの影響が判っている場合は内面処理などを施し、サンプルの吸着を防ぐなどの処置が執られる事もあります。
  一方で新品であることが最良であるという前提で使われるものがあります。
その中の一つに試薬があります。試薬合成に長けている一部の方を除いて、ほとんどの方は試薬メーカのカタログの中からご自分の実験内容に応じて最も適した試薬を選んでおられると思います。

 近年分析機器の高感度化や新たな分析法が開発されるに及び、今までの分析機器や方法では検出されなかった不純物成分が分析全体の妨げになる事も稀でなくなってきています。分析用試薬であってもクロマトグラフ用、原子吸光分析用や吸光分析用など測定方法によって最適なものを選ぶ必要があります。また抽出や濃縮など前処理操作での混入することを防ぐために、残留農薬試験用や水質試験用などからも選ぶ事があります。
  ではどの様にして最適な試薬を選んでいけば良いのでしょうか? 
 HPLCにおけるアルデヒド分析を例に考えてみましょう。
日本環境測定分析協会編の「環境と測定技術」の発表1)から紹介します。

 大気中のアルデヒド類は2,4-DNPH(2,4-Dinitrophenyl hydrazine)を含浸させた捕集菅で捕集し、それをアセトニトリルで溶出させ分析用に供します。
ここでは使われるアセトニトリルとしてHPLC分析用、残留農薬用、アルデヒド用を検討されています。それぞれHPLC移動相と捕集菅からの抽出用の計9種類の組合せで比較されており、その中からHPLC分析用アセトニトリル同士の組合せが最も定量下限値が低かったとの報告がなされています。勿論メーカやロットによって異なる結果が出る可能性もありますが、試薬の用途によって結果が異なる場合がある事を示唆しています。

 その他にも興味ある報告がされていましたので紹介しておきます。
DNPH捕集菅の保管温度が定量下限値に影響を与え、メーカ推奨温度-5℃が最も良かった。熟練者と新人では差が見られなかった。新機種の方が定量下限値は低かった。室内空気中ホルムアルデヒド濃度と定量下限値との間に相関が見られたとの事です。

 もう一つ悪臭防止法におけるGCを用いた低級脂肪酸の分析例についてご紹介します。
現在は用途別の試薬が販売されおり影響は出ていませんが、初期には一般試薬しか無く、メーカ間で異なったクロマトグラムが得られた事がありました。それを以下に示します。

 
  大気中の低級脂肪酸をアルカリビーズの入った捕集菅に捕集し、捕集菅にギ酸を注入して目的の低級脂肪酸をGCに導入する方法です。
この時に注入されるギ酸の不純物がメーカ間で異なり、ちょうど酪酸の溶出位置に重なってしまう事例がありました。

 
 事例ではA社製、B社製から不純物が溶出し分析の妨害となってしまいました。
現在ではこれら目的成分の溶出位置に検出されないように品質管理された専用の試薬が販売されていることは前述の通りで、重ねて誤解の無いように申し添えておきます。
  このように試薬と言っても目的に応じて適切なものを選ばないと間違った結果が出たり、高感度での検出の妨げになったりしますので十分な注意が必要です。
  さてこのようにして選んだ試薬はどの様に管理したら良いのでしょうか? 
  実験で使用する試薬は引火性が高かったり、健康を害したりする有害なものが多くあります。SDS(Safety Data Sheet:製品安全データシート)またはMSDS(Material Safety Data Sheet:化学物質安全性データシート)を取り寄せ、それに従って取り扱い、保管する事は勿論のことで、消防法、毒劇物取締法等の各種法令に従い届出や対応が求められます。
 冒頭に書いたように試薬の場合は新鮮なものが望ましいです。必要以上に買いだめしたり、場所がないからと言って混在したりしない事です。

失敗例をご紹介しましょう。

 上水試験方法2)の中に揮発性有機化合物の分析があります。
ヘッドスペース法が多く使われていますが、ヘキサンによる溶媒抽出法も採用されています。この時に使用する抽出用のn-ヘキサンと分析目的である標準試薬のジクロロメタンや四塩化炭素を未開封のまま実験台下の棚に一年ほど保管しておいたところ、n-ヘキサンブランクからジクロロメタンや四塩化炭素が検出されてしまいました。
 セロファンも破られておらず全くの未開封の試薬だったので、その前提から先ず装置が疑われました。
 しかしどの様な措置を執っても軽減されず行き詰まってしまいました。
 最後に別のところから試薬を調達して確認したところ、見事に何も検出されないという経験をしました。
 残念ながら新品の試薬であっても長期間混在状態で保管すると揮発性の高い試薬は容易に移行してしまう危険性を孕んでいることを認識しました。皆さんは試薬をどの様に選択され、扱い、保管されているでしょうか?
 一口に試薬と言ってもその性質は千差万別なので、試薬の性状を正しく理解すると共にご自分の分析目的に応じた正しい試薬選択と管理をされることお勧めします。

 皆さんのお仕事の一助になれば幸いです。

1) 鈴木昭人 環境と測定技術 VOL.33 No.10 (2006)
2) 上水試験方法 日本水道協会編


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