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島津テクノリサーチの極微量分析体制
教科書に載らない分析の話
第一話 分析装置に愛情を注ぎましょう 2013年12月17日更新
第ニ話 実験器具の取り扱いにも時代背景が 2014年1月20日更新
第三話 「未開封の試薬」は「新品」なの? 2014年2月14日更新
第四話 単位のおはなし -その1- 2014年3月18日更新
第五話 単位のおはなし -その2- 2014年4月17日更新

  実験器具の取り扱いにも時代背景が

 近年、分析機器はドンドン進化し、ほとんどがデジタル化されています。
 自動化が進み、コンピュータから設定され、データが吸い上げられます。必要な定性結果や定量値も自動的に計算され表示されます。効率化が進み、人的ミスも軽減されるようになっています。
 一方、試料をこれらの機器で分析する際にはほとんどの場合、何らかのかたちで試料に手を加えなければなりません。つまり秤量、溶解、希釈、濃縮、乾燥等々の操作はアナログ的な世界が中心となります。
 ネット上には学生実験を中心に器具の取扱う際の注意点や、正しい器具の取扱い方を学び、怪我や事故から身を守る事と、本来の目的である精度良く実験ができる操作方法が記載されています。
 キチンとマニュアル化されている場合もありますが、筆者が学び始めた時代は伝承が多く、先生や先輩からの指導や操作を盗み見て学んだことが多かったように思います。そのため必ずしも正しい操作方法が身に付いているとも思えませんし、教わった相手や時代によっても操作方法が違ったりすることもあります。

 その典型的な例に全量ピペット(ホールピペット)の取り扱いがあります。
 正確な溶液の量り採りには全量ピペットが欠かせませんが、ネットを見ても取扱い方に差が見られます。
 溶液を吸い上げ、標線に合わせるところまでは大きな違いはありませんが、溶液の排出の仕方、特に先端に残った最後の一滴をどう扱うかには差が見られます。

 あるサイト1)では、
 「排出する時はなるべくピペットを垂直に支え、先端を容器の内壁に軽く触れながら液を排出し、終ったらそのまま15秒間保った後、ピペットをとる」 と書かれていたり、
 別のサイト2)では
 「排出が終わった後、ホールピペットの膨らみの部分を手のひらで温めて最後の一滴を出す」 と書かれていたりします。
 更に別のサイト3)で安全ピペッターを使った方法では
 「はかった液を滴下する時は膨らんだ部分を手のひらで温めて最後の一滴まで落とす」 とあります。
 精密に秤量するのに最後の一滴を排出するかしないかは大きな差になります。
 ではJISではどう規定されているのでしょうか? 

 「JIS R 3505 ガラス製体積計(文面抜粋)」では次のように記載されています。
 7.構造及び機能  構造及び機能は、次のとおりとする。
  (1)メスピペット及び全量ピペットの排水時間は、呼び容量に応じて付表 2 及び付表 3 のとおりとする。
ただし、この規定は被計量液名が表記されている場合には適用しない。


メスピペット又は全量ピペットを垂直にして水を自由に排出させたとき、呼び容量に相当する体積が排出されるのに要する時間。
 ただし、先端までの容積によって呼び容量が定まるメスピペット及び全量ピペットであって、先端に微量の液体を残して流出が止まるものは、その止まるときまでの
 時間とする。
 
   付表3 全量ピペット (付表2はメスピペットのため省略)

  この文面を読む限りでは、ピペットの先端を受器の器壁に当てたまま一定時間おく事で秤量できるようです。これらはあくまで粘性の小さな水のような溶液を想定しています。


 全量ピペットで酸やアルカリなどの危険な溶液を量り採ったり、排出したりする際に安全ピペッターが使われます。
 この安全ピペッターにも時代によって二種類あるようです。

 

  左側のAタイプは枝の部分に球状のものはありませんが、右側のBタイプには球状のものが付いています。
 溶液の排出時におけるBタイプの使い方は、枝の部分の中間部分を押して溶液を流出させます。先端に残った溶液は最後に枝の先端を指で封をし、球状の部分を押してピペットから排出させる事ができます。
 Aタイプは球状の部分が無いため、先端に残った溶液は強制的に排出させないことになります。
 ではどうしてこのように取り扱い方に差がみられるのでしょうか?

 それは旧計量法基づく旧計 量器検定検査規則に理由があるようです。
 「先端排出部まで計量に用いられる全量ピペットから水を排出するときのその先端に残った水は、先端を受器にあてながら上端開口を指頭でふさぎ、胴部をあたためて排出するものとする。」つまり先端に残った溶液を排出するために押し出すことが想定されていたのです。
 全量ピペットであるため、Aタイプでは量り採った全量を出し切ることを前提に考えられていたようですが、最近ではISOとの整合性や再現性を高めるために先端部分に残っても良いとの考え方が出て来ており、Bタイプも販売されているようです。
 このように全量ピ ペットであっても、最初に教わった相手や時代によって取り扱いや器具まで変わってくるように思われます。
 現在は旧計量法に基づくタイプとJIS準拠、ISO準拠タイプの二種類が流通しているようなので注意が必要です。
 全量ピペットを使うときの標準的な取り扱い例を示してみました。

  ピペットの下端を液中に20〜30mm程度浸し、液を吸い上げる。
  液を標線の上約20mmのところまで吸い上げる。
  ピペットを液面から持ち上げ、ほぼ垂直に保持して先端をビーカーなどの容器の内壁に軽く触れ、液をわずかずつ排出させ、液面を標線に正しく合わせる。
  移し入れる容器上にピペットを静かに移動し、その内壁に軽く触れながら液を排出する。液を排出し終わったら、そのまま約15秒間保った後ピペットを取り去る。

 さて皆さんは全量ピペット(ホールピペット)の操作を誰から何時の時代に教われたのでしょうか? 
 先端の一滴を残す派でしょうか、残さない派でしょうか? その一滴をどう扱うかについては、時代背景を含めて以下のサイト4)に記載されていますのでご参考下さい。


 参考資料
  (1) http://www.chem.t.u-tokyo.ac.jp/experiment/bunseki/textbook_0.pdf
  (2) http://www.saga-ed.jp/kenkyu/kenkyu_kiyo/image/02kagaku.pdf
  (3) http://rikanet2.jst.go.jp/contents/cp0100a/contents/6040/6040.html
  (4) http://kuchem.kyoto-u.ac.jp/ubung/yyosuke/uebung/last_drop.htm


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