概要
とろみ調整飲料の動的粘弾性測定(温度比較)
概要
とろみ調整飲料は、とろみ調整食品(とろみ剤)に含まれる増粘多糖類が形成する網目構造により、粘性と弾性の両方の特性を持つ粘弾性体としての性質を示します。
このような粘弾性体のレオロジー特性を評価する方法の一つが、回転式レオメータによる動的粘弾性測定です。この測定法では、固体的な性質を示す貯蔵弾性率G’と、液体的な性質を示す損失弾性率G”を用いて、試料の粘弾性挙動を定量的に評価します。
今回は、とろみ調整食品を用いて粘度を調整した水について、動的粘弾性測定により評価した事例をご紹介します。
関連するアプリケーションとして、とろみ調整飲料の粘度ηを回転測定で評価した事例は、こちらのページをご覧ください。
試料
キサンタンガム系のとろみ調整食品を水に添加し、「段階1(薄いとろみ)(*)」および「段階2(中間のとろみ)(*)」に相当する粘度にそれぞれ調整した2種類のとろみ水を作製しました。
段階1(薄いとろみ) : 口に入れると口腔内に広がる
段階2(中間のとろみ) : 口腔内での広がりが遅く、舌の上にまとめやすい
| (*) | 液体食品は、とろみの程度により「薄い・中間・濃い」の3段階に分類されており、それぞれに粘度の基準が設定されています(嚥下調整食学会分類2021)。 |
分析・試験方法
図1 装置外観
| 測定装置 | 回転式レオメータ HAAKE MARS60 (サーモフィッシャーサイエンティフィック社製) |
|---|---|
| 温度 | 10、20、40、60℃(ペルチェ式) |
| 測定方法 | 動的粘弾性測定(振幅依存性) |
| ひずみ範囲 | 100~104[%] |
| 周波数 | 1[Hz] |
図2 動的粘弾性測定イメージ
分析・試験事例
動的粘弾性の評価として、一定の周波数条件下でひずみ(γ)を変化させる振幅依存性測定を、4つの異なる温度条件で実施しました。
この測定では、貯蔵弾性率(G’)および損失弾性率(G”)の挙動をもとに、粘弾性体の線形粘弾性領域(LVE領域)の限界値、構造強度(ゲル強度)、および流動点などを評価することが可能です。
ひずみに対するG’、G”の変化を、温度条件別に図3に示します。各グラフには、「段階1(薄いとろみ)」および「段階2(中間のとろみ)」の2種類の試料の測定結果を重ねて表示しています。
図3 各温度条件の振幅依存性
各レオロジー特性の温度比較結果を以下に示します。
LVE領域の評価
LVE領域とは、試料の内部構造が破壊されていない状態を指します。図3に示したグラフでは、ひずみ100~102%付近に見られるプラトー領域がこれに該当します。このLVE領域において、図3に示された「中間のとろみ」のグラフのように、貯蔵弾性率が損失弾性率よりも大きい(G’>G”)場合、試料は構造を保持した粘弾性固体であり、ゲルの性質を示します。このときのG’値が、構造強度(ゲル強度)として評価されます。
測定結果から、すべての温度条件において「中間のとろみ」の方が「薄いとろみ」よりも高いゲル強度(G’値)を示すことが確認されました。
一方、図3の60℃条件に示された「薄いとろみ」のグラフのように、貯蔵弾性率が損失弾性率よりも小さい(G’<G”)場合、試料は粘弾性液体であり、液体的性質が強いためゲル強度の評価は適用できません。
今回の測定で得られたゲル強度の数値は、表1にまとめています。
また、「中間のとろみ」は「薄いとろみ」と比較して、温度変化によるG’およびG”への影響が小さいことから、とろみを強くすることで温度安定性が向上する可能性が示唆されます。
| 評価項目 | 試料 | 測定温度 | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 10℃ | 20℃ | 40℃ | 60℃ | ||
| ゲル強度 [Pa] | 中間のとろみ | 11.6 | 9.72 | 7.66 | 3.39 |
| 薄いとろみ | 3.50 | 2.63 | 1.19 | 0.30 | |
LVE領域限界値の評価
LVE領域の限界値は、ひずみの増加に伴って試料の内部構造が破壊され始める降伏点を指します。
降伏点は降伏応力(τy)として評価されます。
今回の測定で得られた降伏点の特性値は表2にまとめています。
測定結果から、降伏ひずみ(γy)はいずれの試料も約45%付近であり、降伏応力(τy)はゲル強度の結果と同様に温度が高くなるほど低下する傾向が見られました。
| 評価項目 | 試料 | 測定温度 | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 10℃ | 20℃ | 40℃ | 60℃ | ||
| 降伏ひずみγy [%] | 中間のとろみ | 44.9 | 42.9 | 44.2 | 45.7 |
| 薄いとろみ | 45.6 | 49.0 | 46.6 | 47.4 | |
| 降伏応力τy [Pa] | 中間のとろみ | 5.18 | 4.24 | 3.51 | 1.80 |
| 薄いとろみ | 1.64 | 1.36 | 0.69 | 0.25 | |
(注)降伏応力τyの値は生データより出力しました。
流動点の評価
降伏点を超えてひずみが増加すると、粘弾性固体の内部構造が徐々に破壊され、G’>G”の関係が逆転し、G’<G”となることで試料は流動状態へと移行します。この状態変化の中で、G”=G’となる点が流動点と呼ばれ、試料が流動を開始する境界です。流動点は、降伏点と同様に流動応力(τf)として評価されます。
今回の測定で得られた流動点の特性値は表3にまとめています。
測定結果より、G’=G”となる値自体は温度による影響が小さい一方で、流動応力(τf)はゲル強度の結果と同様に、40℃および60℃の条件で大きく低下する傾向が確認されました。
| 評価項目 | 試料 | 測定温度 | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 10℃ | 20℃ | 40℃ | 60℃ | ||
| G’=G” [Pa] | 中間のとろみ | 2.76 | 2.89 | 2.56 | 2.22 |
| 薄いとろみ | 1.04 | 0.97 | 0.90 | N.D. | |
| 流動応力τf [Pa] | 中間のとろみ | 11.7 | 10.2 | 9.43 | 2.83 |
| 薄いとろみ | 4.77 | 3.77 | 1.49 | N.D. | |
(注)流動応力τfの値は生データより出力しました。
回転式レオメータによる動的粘弾性測定の結果から、とろみの濃度や温度条件が試料の構造安定性に与える影響について、重要な知見が得られました。
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