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反応熱分解-GCMS法による液晶ポリマー(LCP)の構造推定

2012年09月24日更新

概要

 熱分解-GCMS法は、微量の高分子材料を不活性雰囲気下で瞬間加熱後、得られた熱分解生成物をGCMSで解析することで、 基となる高分子構造を推定する手法です。
 熱分解-GCMS法は、ポリマーキャラクタリゼーションの効果的な解析手段となりますが、 一方、対象試料がエステル結合を含む縮合系高分子の場合には、熱分解反応によりGCMSでは検出困難な多塩基酸、 多価アルコールなどの極性化合物が生成され、その構造推定は困難となります。
 このような縮合系高分子に対しては、酸やアルカリ等の反応試薬を試料に添加して熱分解装置に導入し、加水分解と極性官能基の誘導体化を ンラインで行う反応熱分解-GCMS法が考案されており、縮合系高分子の解析手法として注目されています。
 構造未知の液晶ポリマー(LCP;Liquid Crystal Polymer)を対象とした、 熱分解-GCMS法と反応熱分解-GCMS法の比較分析例を紹介します。

試料

■液晶ポリマー(LCP;Liquid Crystal Polymer)

 液晶ポリマーは高剛性で耐熱性、耐薬品性に優れた特性があり、現在スーパーエンジニアリングプラスチック として幅広く使用されています。液晶ポリマーは、p-ヒドロキシ安息香酸を基本骨格として、種々の酸成分をエステル結合させた 芳香族ポリエステル樹脂が一般的であり、現在20種以上の液晶ポリマーが考案されています。

分析・試験結果

■熱分解-GCMS法 分析結果

 熱分解-GCMS法による液晶ポリマーの分析結果を図1に示しました。
 パイログラムの解析から、熱分解物としてフェノールの存在が確認されたものの、MSでの定性が困難な微細ピークが複数得られ、 高極性成分の装置系内での吸着により、ピーク幅の広がった状態で検出されたものと考えられます。
 本結果からは、基となる高分子の構造情報は得られず、熱分解-GCMS法では、 エステル結合を含む縮合系高分子の解析は困難であることが推察されます。

図1 熱分解-GCMS法 パイログラム

図1 熱分解-GCMS法 パイログラム

■反応熱分解-GCMS法 分析結果

 反応熱分解-GCMS法による液晶ポリマーの分析結果を図2に示しました。
 反応熱分解の有機アルカリ試薬として水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を用いて、エステル骨格の 加水分解とメチル化をオンラインで行いました。パイログラムの解析結果から、この反応生成物として3本の明瞭なピークが得られ、 MSによる定性の結果、それぞれp-ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、ジフェノールのメチル化体と示唆されました。
本結果より、今回測定に供した液晶ポリマーの構造は、図3に示したp-ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、 ジフェノールを基本骨格とした縮合構造体であると推定されました。

図2 反応熱分解-GCMS法 パイログラム

図2 反応熱分解-GCMS法 パイログラム

図3 液晶ポリマー構造式(推定)

図3 液晶ポリマー構造式(推定)

 

 今回、従来の熱分解-GCMS法では解析が困難であった縮合系の液晶ポリマーを対象に、反応熱分解法による構造推定例をご紹介しました。 反応試薬による極性基の加水分解、誘導体化を行うことで、縮合系高分子の構造推定のほか、末端基などの微量構造の特定、 共重合比率の推定などにも応用が可能です。

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