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熱分解-GCMSによるナイロンの分析

2012年07月13日更新

概要

 熱分解-GCMS法は、微量の高分子材料を不活性雰囲気下で瞬間加熱後、得られた熱分解生成物をGCMSにより連続的に分離検出する手法です。 同種の樹脂、添加剤含有の樹脂など、他の分析法では構造情報が得られ難い試料の場合でも、熱分解-GCMS法による定性分析から、 有益な情報が得られることがあります。

 一例として以下に、ポリアミド樹脂のナイロン3種(ナイロン-6, -6.6, -6.10) を対象とした、FT-IR法、DSC法、熱分解-GCMS法の比較分析例を示しました。

 ※) ナイロン-6=ε-カプロラクタム(炭素数6)の重縮合樹脂
  ナイロン-6.6=ヘキサメチレンジアミン(炭素数6)とアジピン酸(炭素数6)の共縮重合樹脂
  ナイロン-6.10=ヘキサメチレンジアミン(炭素数6)とセバシン酸(炭素数10)の共縮重合樹脂

分析・試験事例

■FT-IR法

 FT-IR法により得られた赤外吸収スペクトル比較では、今回対象としたナイロン3種ともに近似した結果が得られ、 本測定法によるナイロンの判別比較は困難であると示唆されました(図1)。

図1 ナイロン樹脂-赤外吸収スペクトル比較(FT-IR法)

図1 ナイロン樹脂-赤外吸収スペクトル比較(FT-IR法)

■DSC法

 DSC法により得られた融点(℃)比較では、今回対象としたナイロン3種のうち、ナイロン-6、ナイロン-6.10の2種の 融点(℃)が約225℃でほぼ一致し、本測定法による判別比較も困難であると推定されました(図2)。

図2 ナイロン樹脂-融点比較(DSC法)

図2 ナイロン樹脂-融点比較(DSC法)

■熱分解-GCMS法

 熱分解-GCMS法により得られたパイログラムの解析比較から、今回対象としたナイロン3種の構造に由来する 特徴的な熱分解物が確認されました(図3)。
 各々の主要ピークをMSで解析した結果、ナイロン-6からは、解重合物としてモノマーのε-カプロラクタム、 ナイロン-6.6からは、アジピン酸由来のシクロペンタノンとモノマーのヘキサンメチレンジアミン、さらにナイロン-6.10からは、 セバシン酸由来のジニトリル体と酸・アミン成分に由来する熱分解物が検出され、各々の構造を反映する解析結果が得られました。

図3 ナイロン樹脂-パイログラム比較(熱分解-GCMS法)

図3 ナイロン樹脂-パイログラム比較(熱分解-GCMS法)

 

 今回、FT-IR法やDSC法では難しかったナイロン樹脂の判定において、熱分解-GCMS法が有効であることが確認されました。 熱分解-GCMSより得られる熱分解生成物の情報は、元となる高分子構造を反映するため、ポリマーキャラクタリゼーションの効果的な解析手段となります。
 このほか、熱分解-GCMSでは、GCの分離能力、MSの定性能力を生かした微量有機不純物や配合添加剤の特定、 UV照射装置を併用した耐候性評価試験など、さまざまな高分子材料分析が可能です。

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