概要


THS-GCMS分析による缶コーヒーの香気分析 ー類似商品間の差異成分の解析ー
概要
食品や飲料の香りは、「おいしさ」や「嗜好性」に繋がる重要な要素であり、サンプル間における差異成分の解析は、他社商品との差別化を目的とした商品開発や、異臭クレームの解析などにおいて有効な判断材料となります。
今回は、市販の缶コーヒー2種(ともに無糖ブラック、別メーカー品)を対象に、THS-GCMS分析(トラップ型ヘッドスペース法)による、香気成分の比較分析例をご紹介します。
分析・試験装置

GCMS-QP2020(島津製作所)
● ヘッドスペースサンプラー:HS-20NXトラップモデル
● デコンボリューション多変量解析ソフト:AnalyzerProXD (SpectralWorks社)
● GCMS:GCMS-QP2020(島津製作所)
● 分析カラム:
InertCap Pure-WAX (Length 30 m, 0.25 mm I.D., df=0.25μm, GLサイエンス)
試料
サンプル名 | メーカー商品情報(特徴) |
コーヒー「A」 | 爽やかな心地良い香り |
コーヒー「B」 | 炭焼き焙煎による深い香り |
分析・試験方法
- 市販の缶コーヒー2種を各8mL、塩化ナトリウムを3g、20mL容量バイアル瓶に封入。
- 60℃で30分間加熱後、気相中の香気成分をHS装置に内蔵されたTENAX捕集管に濃縮。
- TENAX捕集管の水分をドライパージにより除湿後、捕集管の加熱脱離を行いGCMS分析。
(1~3の測定を、各サンプルn=2で実施) - GCMSクロマトグラムのデコンボリューション処理と多変量解析(2群比較法)により、サンプル間の差異成分を解析。
分析・試験結果
「THS-GCMS分析」による、缶コーヒー2種のGCMSクロマトグラム(TIC)を図1に示します。
2種のクロマトグラムは近似しており、その主要成分においては類似性が認められます。
そこで目視比較で見落としがちな微細ピークを含めた詳細解析を行うため、クロマトグラムのデコンボリューション処理と多変量解析(2群比較法)による差異成分の解析結果を図2および表1に示します。
図2の横軸は缶コーヒー2種間の各ピーク面積値の差異を示し、縦軸は缶コーヒー2種間の各ピークの有意差(n=2)を示します。
図2と表1の▲はコーヒー「A」のみで検出された成分、▲はコーヒー「B」のみで検出された成分、▲はコーヒー「A」・「B」の両方で検出された成分のうち、サンプル間に大小関係(ピーク面積が2.5倍以上の差異)が認められた成分を示します。
表1の結果より、コーヒー「A」>コーヒー「B」の差異成分はリナロールやフルフラール類などの爽やかな香りの香気成分、コーヒー「B」>コーヒー「A」 の差異成分はピロールやグアヤコール類などのスモーキーな香りの香気成分が、缶コーヒー2種間の差異成分として明かとなりました。
上記の解析結果をもとに、図3で示した微細ピークの比較クロマトグラム(拡大)より、メーカー商品情報(特徴)を説明できる特徴的な差異が、本試験結果において認められました。

図1 GCMS 比較クロマトグラム(TIC)

図2 多変量解析結果(2群比較法)
表1 差異成分 解析結果
差異成分 A>B (2.5倍以上) | 差異成分 B>A (2.5倍以上) | ||
---|---|---|---|
成分名 | 保持時間 (min) |
成分名 | 保持時間 (min) |
▲ リナロール ▲ 5-メチル-2-フルフラール ▲ フルフラール |
11.01 11.18 9.76 |
▲ ピロール ▲ 1-メチルピロール ▲ 4-エチルグアヤコール ▲ グアヤコール ▲ クロトン酸メチル ▲ ピリジン |
10.45 5.23 16.26 14.47 4.79 5.82 |
▲ :コーヒー「A」のみで検出された差異成分 ▲ :コーヒー「B」のみで検出された差異成分
▲ :コーヒー「A」と「B」のピーク強度に、大小関係が認められた差異成分

図3 GCMS 比較クロマトグラム(TIC) - 拡大
飲料や天然物など、香気成分の組成が複雑な類似サンプル比較において、デコンボリューション処理と多変量解析により得られた情報を加味したデータ解析を行うことで、微細ピークを含めた詳細な差異成分の探索が可能ですので、ぜひお問合せください。
2023.07.04 257