概要
繊維状異物の判別
2014年12月16日更新
概要
異物は多種多様ですが、繊維状のものが比較的多くみられます。
繊維は種類が豊富で、FT-IRを用いた赤外吸収スペクトル測定等の成分分析だけでは判定が難しい為、顕微鏡などによって外観や形状を観察することが重要です。
分析・試験事例
よく異物にみられる3種の合成繊維(ポリエチレン系、ポリエステル系、ポリアミド系)の赤外吸収スペクトルを比較しました。
図1のように合成繊維であれば赤外吸収スペクトルで判別可能なものもありますが、繊維状異物として混入するものの中には、合成繊維以外に毛とみられるものも数多く確認されます。
毛にはヒトの毛髪だけではなく、ネコやイヌなどの獣毛も異物として混入するケースもあります。
図2に人毛と三種類の獣毛の赤外吸収スペクトルを示します。
毛はいずれも同様の赤外吸収スペクトルを示すので、人毛と獣毛の判別は出来ません。
毛には小皮紋理と呼ばれる鱗状の模様があり、その小皮紋理は動物の種類で異なる場合があります。
さらに、毛の中心部分に毛髄と呼ばれる構造を持つため、小皮紋理と毛髄を観察することによって、毛か他の繊維かの判別をすることが可能です。
■外観観察
四種類の毛(ヒト、イヌ、ネコ、ブタ)の表面と断面(樹脂包埋後、ミクロトームで断面出し)の顕微鏡観察を行いました。
いずれの毛も、表面には鱗状の模様があり、断面からは中心部に毛髄が確認できます。
ヒト | イヌ | ネコ | ブタ(ブラシの毛) |
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毛表面の紋様の違いもありますが、断面の毛髄の大きさにも違いがみられます。
この毛髄の太さの違いを利用した、髄指数(毛髄の太さ/毛の太さ×100)という指標があり、毛の判別に有用な情報となります。
ヒト以外のほとんどの動物は、毛髄の太さが毛の太さの1/2以上であることが知られています。
写真でも、イヌ、ネコは、髄指数が50以上と推察されます。
ブタは小皮紋理も髄指数もヒトと類似していますが、毛先が分裂状であるという特徴がある為、毛先が存在していれば判別することは可能です。
従って、毛先や毛根の形状なども合わせて観察することが重要です。
ただ、異物として混入する毛には、毛先や毛根が存在しないばかりか、小皮紋理すら観察できない場合もあります。その場合は、DNA検査などの手法を用いることで有用な情報が得られることがあります。