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橋梁等の塗膜くず(廃塗膜)中のPCB分析(塗膜調査)

特長・用途

橋梁等の塗膜くず(廃塗膜)中のPCB分析(塗膜調査)について

 1960年代から1970年代初めに製造及び使用された鋼構造物用の塩化ゴム系塗料の一部には、PCBが可塑剤として使用されていたことが知られています。
 これらの塗料は廃棄物として保管されているものの他に、高度成長期の橋梁や建築物のように現在、まさに修理や改築が必要となってきている構造物に用いられています。
 2014年9月に公表された「低濃度PCB含有廃棄物に関する測定方法」では、こうした橋梁等の塗膜くず(廃塗膜)についての低濃度PCB含有廃棄物としての測定方法が示されました。
 2019年10月の改訂(第4版)では、低濃度PCB汚染物に該当するか否かを判定する方法の追加が行われ、塗膜くず(廃塗膜)に関しては、分析方法としてGC/HRMS等の質量分析計による測定のみが指定されています。

(最新版)「低濃度PCB含有廃棄物に関する測定方法(第5版)」
  http://www.env.go.jp/recycle/poly/manual/teinoudo_ver5.pdf [環境省HPへ]

 塗膜中のPCBの基準としては、2019年3月に環境省から低濃度PCB汚染物の基準が示されました。この基準(0.5mg/kg)を超えた場合は、PCB廃棄物としての対応が必要となります。
 2019年12月には高濃度PCB汚染物の基準が変更され、PCB濃度が100,000mg/kgを超過しない試料については、低濃度PCB廃棄物の無害化処理認定施設での処理が可能となりました。

建設年度別の道路橋施設数

図1 建設年度別の道路橋施設数(道路局集計H25より)

 

 2014年5月、厚生労働省、国土交通省から「鉛等有害物を含有する塗料の剥離やかき落とし作業における労働者の健康障害防止について」(平成26年5月30日)の通達が出されました。 これは、橋梁における塗料の剥離作業において、作業者の安全面への配慮から、塗膜に含まれる鉛等有害物の含有を事前に確認する事等の対策を指示したものです。

 また、2018年2月、一般社団法人日本鋼構造協会より発行の「鋼構造物塗膜調査マニュアル」が改正され、重防食塗装への塗替えを行う際の旧塗膜中の「有害物質の調査」について、適切な調査計画や分析方法で行う必要性が追記されました。

 2018年11月、環境省から「高濃度ポリ塩化ビフェニル含有塗膜の調査について(通知)」(平成30年11月28日、環循施発第1811283号)が発出され道路橋、鋼製タンク(石油貯蔵タンクやガス貯蔵タンク等)、水門・鉄管の鋼構造物、船舶等の高濃度PCB 廃棄物となる塗膜について早急に調査を進めるよう「ポリ塩化ビフェニル含有塗膜 調査実施要領」(2020年3月に第2版、2021年5月に第3版に改訂)が示されました。

 https://www.env.go.jp/recycle/poly/tomaku3.pdf [環境省HPへ]

 2019年3月に環境省から「低濃度ポリ塩化ビフェニル汚染物の該当性判断基準について(通知)」(平成31年3月28日、環循規発第1903283号、環循施発第1903281号)が発出され、PCB含有濃度が 0.5mg/kg以下となる場合は、低濃度PCB汚染物に該当しない旨が示されました。

 http://www.env.go.jp/recycle/1903283.pdf [環境省HPへ]
 
当社では、これらに関連する分析について対応可能です。
 

 対象となる塗料は、下地(さび止め用途)や塗装(表面)に分類され、当時のもの(鉛丹さび止め塗料、亜鉛系さび止め塗料、フタル酸樹脂塗料)から最近のもの(エポキシ樹脂塗料)まで様々です。
 また、剥離方法も下図に示す通り、物理的な剥離から、剥離剤を用いた方法まであり、剥離方法によって試料マトリックスは異なります。そのため、適切な前処理や測定を実施しないとマトリックスの影響を受けて、正しい定量ができません。

剥離方法の違いによる試料状態

分析・試験方法

適切な調査プランの提案

 橋梁は非常に大きな建造物であるため、用いられた塗料もロット違いなど複数存在する可能性があります。
 また、塗膜くずは1橋梁でドラム缶数百本以上になることもあるため、他の媒体で用いられるような保管容器ごとの全数検査には大変な労力を要します。
 当社では環境省からのサンプリング方法についての通知※や過去の実績を踏まえ、適切な調査プランをご提案します。

「ポリ塩化ビフェニルを含有する可能性のある塗膜のサンプリング方法について(通知)」
(令和元年10月11日、環循規発第1910114号、環循施発第1910113号)

 例えば下図のような、橋梁を橋梁間隔(径間)単位で塗膜中のPCB濃度を測定した事例では、径間CとDの間でPCB濃度及びPCB組成パターンに違いがみられ、異なる塗料が用いられた可能性が高いと考えられます。
 こうした径間単位での調査により、PCB廃棄物を部分的に限定し、PCB廃棄物量の削減ができる可能性もあります。橋梁の補修設計など計画的な調査におけるプラン立案も可能です。

橋梁の廃塗膜PCB分析調査例(橋梁塗膜を径間単位で測定)

図2 橋梁の廃塗膜PCB分析調査の一例(橋梁塗膜を径間単位で測定)

前処理方法について

 2014年9月に環境省から「低濃度PCB含有廃棄物に関する測定方法」が示されました。
 当社も委員として参加した『PCB汚染物のPCB含有量測定法検討ワーキンググループ』において検討された内容をもとに作成されたもので、塗膜くずに対しジクロロメタン等の有機溶剤及び硫酸を用い、溶解させ抽出する方法が示されています。
 これは、従来の分析方法において、試料の表面部分しか抽出できていない欠点を改良した方法です。
 従来法との比較結果については、当社が過去に行いました学会発表をご参照下さい。

抽出操作の違いによるPCB濃度の変動

図3 従来法との抽出操作の比較例

 

測定方法について

 「低濃度PCB含有廃棄物に関する測定方法(第3版)」までは、測定装置として絶縁油における簡易定量法を流用する形で、GC/HRMS、GC/LRMSだけでなく、GC/ECDなども示されていました。
 GC/ECDは有機塩素などの有機ハロゲン化合物を検出する測定装置です。塗膜くずは、塩化ゴム系塗料や塩素系顔料など試料自体に多くの塩素を含むため、マニュアル記載の精製方法を行っても、妨害成分により測定できない場合もあります。マニュアルでは、こうした試料にはGC/ECDは適用できず、GC/HRMSなどによる分析に切り替えるよう示されています。そのため、当社では妨害成分による影響を排除するため、当初からGC/HRMSによる測定を実施しています。
 2019年10月に「低濃度PCB含有廃棄物に関する測定方法(第4版)」が公表され、分析方法としてGC/HRMS等の質量分析計による測定のみが指定されています。
 PCB廃棄物適正処理推進に関する検討委員会にて示されている橋梁の廃塗膜 PCB 分析調査結果の一例によると、5000ppmを超過する塗膜はごく一部であるが、微量にPCBを含む塗膜が多いことがわかります。特にPCB廃棄物の基準である0.5ppm近辺に多く存在し、精度の高い調査が求められます。

橋梁の廃塗膜 PCB 分析調査結果の一例

図4 橋梁の廃塗膜 PCB 分析調査結果の一例
(PCB廃棄物適正処理推進に関する検討委員会議資料より)

架設年代による橋梁の塗膜中PCB濃度分布

図5 架設年代による橋梁の塗膜中PCB濃度分布
(化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会資料より)

 2019年12月に環境省より塗膜における顔料由来の副生PCBに関する取り扱いの見解が示されました。顔料製造時点でBAT レベルまで低減していると認定されておらず、該当性判断基準を上回るものは、PCB 特措法が適用され、低濃度PCB 廃棄物に該当します。また、有機顔料由来のPCBの測定には、HRMSを用いた告示192号別表第二の測定が必要となるため注意が必要です。当社では、製品由来のPCB濃度と製品由来以外(副生PCB)のPCB濃度をご報告することも可能です。

 http://www.env.go.jp/press/107555.html [環境省HPへ]

分析精度について

 たとえ分析マニュアルに示された方法で分析を実施した場合であっても、精度良く分析結果を出すには、日々の精度維持及び向上を行う必要があります。
 当社では、徹底した内部精度管理の実施に加え、外部精度管理についても積極的に参加しています。
 絶縁油中の微量PCBに関する簡易測定法マニュアルでは、「PCB濃度の測定を分析機関に依頼する場合は、当該分析機関における外部精度管理等の実施等の確認等を通じて、 当該分析の信頼性の把握等に努める必要がある」と記載されています。
 当社では、お客様のご要望に応じ、外部精度管理情報の開示も可能です。また、絶縁油中のPCB分析におきましては、試験所認定の国際規格であるISO/IEC17025(JIS Q 17025)を取得しており、より信頼性の高い分析を提供します。

測定結果の取り扱い

 塗膜くずに関しては、2019年3月に環境省からPCB含有濃度が 0.5mg/kg以下となる場合は、低濃度PCB汚染物に該当しない旨が示されました。この基準を超過する場合は、PCB廃棄物(特別管理廃棄物)としての対応が必要となります。 また、高濃度PCB含有廃棄物としての基準は2019年12月より100,000mg/kgとなり、それを超過する試料については、中間貯蔵・環境安全事業(株)での処分期間内の処分等が必要となります。

調査結果を反映した保管管理、及び処理方法

 当社では、調査計画の立案から、測定結果を反映した保管管理方法、処理方法まで提案します。
 ぜひご相談ください。
 

分析・試験事例

塗膜における、その他分析項目

 橋梁等における塗膜では、PCB以外にも有害物質の調査が必要な場合があります。塗料中に含有される鉛やクロム、その他重金属類(水銀、ヒ素、セレンなど)やコールタール、アスベスト等がそれに該当します。
PCBを高濃度に含む試料などにおいては、こうした物質の測定は、難易度が高くなります。当社では、こうした項目の分析にも対応しています。
詳細は「橋梁等の塗膜くず(廃塗膜)中の重金属(鉛、クロム)、コールタール等の分析」をご覧ください。

調査事例及び留意事項

 高速道路や自治体管轄の橋梁でも調査事例があります。詳細はお問い合わせください。

 2017年3月、塗膜の剥離の際の留意事項等について土木研究所よりガイドラインが示されました。

土木鋼構造物用塗膜剥離剤ガイドライン(案). 改訂第2版. (国立研究開発法人土木研究所 平成29年3月)
http://www.pwri.go.jp/team/imarrc/research/tech-info/tech4354.pdf [土木研究所HPへ]

鋼構造物塗膜調査マニュアル(JSSⅣ03-2018)一般社団法人日本鋼構造物協会

実績

研究実績

 当社では、塗膜くず(廃塗膜)中のPCB分析法に関して様々な検討を行い、多くの知見を保有しています。
 調査実施の際にはぜひご相談ください。

岩田 直樹, 本田 聖人, 中井 勉, 井上 毅, 高菅 卓三(島津テクノリサーチ), 野馬 幸生(国立環境研究所)

「低濃度PCB廃棄物としての廃塗膜(塗膜くず)中PCB分析方法の開発 第四報」 第29回 環境化学討論会(大阪;2021)
詳細はこちらへ >>

岩田 直樹, 本田 聖人, 中井 勉, 井上 毅, 高菅 卓三(島津テクノリサーチ), 野馬 幸生(国立環境研究所)

「低濃度PCB廃棄物としての廃塗膜に関する研究 (第三報)」 第29回 環境化学討論会(大阪;2021)
詳細はこちらへ >>

岩田 直樹, 本田 聖人, 中井 勉, 井上 毅, 高菅 卓三(島津テクノリサーチ), 野馬 幸生(国立環境研究所)

「低濃度PCB廃棄物としての廃塗膜(塗膜くず)に関する研究 (その3)」 第30回 廃棄物資源循環学会研究発表会(仙台;2019)
詳細はこちらへ >>

岩田 直樹

「橋梁等の鋼構造物における旧塗膜除去有害質調査対応」 一般社団法人 日本橋梁・鋼構造物塗装技術協会 第22回技術発表会(東京;2019)
詳細はこちらへ >>

岩田 直樹, 林 篤宏, 井上 毅, 高菅 卓三(島津テクノリサーチ), 野馬 幸生(元福岡女子大学)

「低濃度PCB廃棄物としての廃塗膜(塗膜くず)に関する研究 (その2)」 第26回 廃棄物資源循環学会研究発表会(福岡;2015)
発表要旨はこちらへ >>

岩田 直樹,岡田淳,林篤宏,井上毅,高菅卓三(島津テクノリサーチ),野馬幸生(元福岡女子大学)

「低濃度PCB廃棄物としての廃塗膜(塗膜くず)中PCB分析方法の開発 第三報」 第24回 環境化学討論会(北海道;2015)
発表要旨はこちらへ >>

岩田直樹,林篤宏,井上毅, 高菅卓三(島津テクノリサーチ),野馬幸生(福岡女子大学)

「低濃度PCB 廃棄物としての廃塗膜(塗膜くず)中PCB 分析方法の開発 第二報」 第23回 環境化学討論会(京都;2014)
発表要旨はこちらへ >>

岩田直樹,林篤宏,井上毅, 高菅卓三(島津テクノリサーチ),野馬幸生(福岡女子大学)

「低濃度PCB 廃棄物としての廃塗膜(塗膜くず)に関する研究」 第24回 廃棄物資源循環学会研究発表会(北海道;2013)
発表要旨はこちらへ >>

岩田直樹,林篤宏,井上毅, 高菅卓三(島津テクノリサーチ),野馬幸生(福岡女子大学)

「低濃度PCB廃棄物としての廃塗膜中PCB分析方法の開発」 第22回 環境化学討論会(東京;2013)
発表要旨はこちらへ >>

塗膜の剥ぎ取り

塗膜の剥ぎ取り作業の一例
[国土技術政策総合研究所資料第684号から転載]

関連情報