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PBB/PBDE

概要

 PBB/PBDEが大きくクローズアップされている理由の一つに欧州(以下EU)での電気電子機器に係る特定有害物質の使用制限に関して出された二つの指令があります。

 ひとつは「電気電子機器廃棄物の回収とリサイクルに関して、廃電気電子機器に関する欧州議会及び理事会指令」いわゆるWEEE指令です(Directive 2002/96/EC of the European Parliament and of the Council of 27 January 2003 on waste electrical and electronic equipment)。

 もうひとつは「欧州電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する欧州議会及び理事会指令」いわゆるRoHS指令(Directive 2011/65/EU of the European Parliament and of the Council of 8 June 2011 on the restriction of the use of certain hazardous substances in electrical and electronic equipment)です。

法規制・規格

 これらは2003年2月にEU官報に告示され発効しました。
 RoHS指令は、その後2011年7月に改正RoHS指令(2011/65/EU)が公布され、2015年6月にフタル酸系の4物質を追加する官報が公布されました。WEEE指令は各メーカーに廃棄物リサイクルの推進(自社製品の回収・リサイクルコストを負担させる)を求めているのに対し、RoHS指令は生産者に指定物質(Cd、Pb、Hg、六価Cr、PBB、PBDE、DEHP、BBP、DBP、DIBP 印は規制開始は2019年)を含有したものを作らないよう求めたもので、それぞれ出口規制・入口規制ともいわれています。
 WEEE指令では2005年8月13日以降に販売される製品については、メーカー各社が自社製品について回収・リサイクルコストを費用負担することになりました。一方のRoHS指令では2006年7月1日以降に上市される新しい電気電子機器に関して、指定6物質の使用が禁止されることになり、各メーカーでは対応が進められています。

このような流れの中で、上記物質に関する非含有証明書が求められるケースが増えてきています。

ケース1. セットメーカーから各欧州の輸出先への非含有証明書
ケース2. 各サプライヤーからセットメーカーへの非含有証明書 など

 RoHS指令では閾値(有害物質の最大許容含有量)が決められており「鉛、水銀、六価クロム、PBB、PBDE、DEHP、BBP、DBP、DIBP」に関しては1000ppm(0.1%)、「カドミウム」に関しては100ppm(0.01%)となっています(※欧州司法裁判所は、2008年4月1日に、2005年10月13日のDeca BDEの除外決定(2005/717/EC)を無効とする判決を出しました。2008年7月1日以降、Deca BDEも規制の対象になりました。)

<PBB/PBDEの分析法に関して>

 PBB/PBDEの分析には大きく分けて、EDX(エネルギー分散蛍光X線分析法)等を用いた非破壊スクリーニング法とGC-MS等を用いた精密分析法があります。
 RoHS指令に係る分析方法としては、IEC(国際電気標準会議)/TC111(環境配慮専門委員会)のWG3(含有有害化学物質測定方法に関するワーキンググループ)で国際標準化が進められ、2008年12月に正式に第1版として発行されました(IEC 62321 Ed.1 Electrotechnical products - Determination of levels of six regulated substances (lead, mercury,cadmium, hexavalent chromium, polybrominated biphenyls, polybrominated diphenyl ethers))。
 その後、すぐに改訂作業に入り、今後、改訂作業を効率よく行うためにIEC62321のサンプリングガイドラインであるPAS62596も取り込んだ形(IEC62321-2として)で、概論、サンプリング、スクリーニング、精密分析の分析方法あるいは対象項目毎のファミリー規格として見直しが行われています。このうち、改訂作業が完了した、IEC 62321 Part 1, Part 2, Part 3-1, Part 3-2, Part 4, Part 5が2013年5月~6月に発行されました。

IEC 62321-1 Determination of certain substances in electrotechnical products – Part 1: Introduction and overview - Edition 1.0
IEC 62321-2 Determination of certain substances in electrotechnical products – Part 2: Disassembly, disjointment and mechanical sample preparation - Edition 1.0
IEC 62321-3-1 Determination of certain substances in electrotechnical products – Part 3-1: Screening – Lead, mercury, cadmium, total chromium and total bromine by X-ray fluorescence spectrometry - Edition 1.0
IEC 62321-3-2 Determination of certain substances in electrotechnical products – Part 3-2: Screening – Total bromine in polymers and electronics by Combustion – Ion Chromatography - Edition 1.0
IEC 62321-4 Determination of certain substances in electrotechnical products – Part 4: Mercury in polymers, metals and electronics by CV-AAS, CV-AFS, ICP-OES and ICP-MS - Edition 1.0
IEC 62321-5 Determination of certain substances in electrotechnical products – Part 5: Cadmium, lead and chromium in polymers and electronics and cadmium and lead in metals by AAS, AFS, ICP-OES and ICP-MS - Edition 1.0

 PBB/PBDEの分析法は、2015年6月にIEC62321-6(第一版)として発行されました。ここではGC-MS以外に参考として、HPLC、IAMSも取り入れられています。
 IEC 62321-6(第1版)では、基本的にソックスレー抽出法を用い、GC-MSで測定すると規定されています(可溶性ポリマーに関しては超音波抽出法でも適用可)。
 しかしこの分析法には、元々2種類の樹脂(HIPS、PC+ABS)中の分析法しか規定されておらず、それ以外は評価外とされています。したがって、それ以外の樹脂からの目的物質の抽出、精製法については、各分析機関ごとに独自の評価を加えて実施しなくてはなりません。この事は、各国の分析機関が各々の方法で分析を行い、その結果、多くの疑義・問題が勃発する原因となっていることから、「より広い範囲での標準化」が望まれています。

 それ以外の分析方法としては、アメリカEPA1614(高分解能GC-MSを用いたPBDE等分析法;draft)、3540C(Soxhlet Extraction)、EPA3550C(Ultrasonic Extraction)、ドイツBAM(製品中のPeBDE及びOcBDEの分析方法)、中国版RoHS(中国版RoHSに係る分析方法;draft)等やそれに準拠する方法が採用されています。

 当社では、各種分析方法を検討し、それぞれの方法が持つ問題を検証してきました。これらの検証結果は日本環境化学会主催の第14回~16回環境化学討論会、第42回~43回環境化学講演会での講演、産業と環境2006年8月号「RoHS指令における臭素系難燃剤」発表といった活動を通じ、皆様に問題点とその解決方法の情報という形で提供しました。
 また、当社は国内でのIEC/TC111/WG3に委員として参画し、分析法の開発に携わっています。

特徴・用途

<PBB/PBDEを分析する際の留意点と当社の強み>

 PBB/PBDEは多くの異性体・同族体を持つため、より正確な定量を行うためには、いくつか気をつけないといけないポイントがあります。

  • 遮光下もしくはUVカット蛍光灯下で分析を行うこと…PBB/PBDEは光分解し易いためUVカットは必須です。
    当社は、有機ハロゲン化合物を取り扱う実験室内の蛍光灯は、すべてUVカット仕様の蛍光灯にしており、光分解が起こらないようにしています。
     

  •  熱分解が起こらない前処理・GC温度条件を検討すること…300℃をこえる温度ではPBB/PBDEの分解で十臭素→九臭素→八臭素と低臭素化体に分解、脱臭素シフトが起こるため、GC注入口等での分解を起こさない温度条件を検証しなければなりません。
    当社は、各種内部標準物質等を用いて、分解の起こらない条件を確認しています。
     

  • ガラス器具等の再利用によるクロスコンタミネーションを防止すること…目的対象物の濃度は0.1ppm程度から300,000ppm(30%)超まで広範囲にわたります。30%の濃度の含有試料を扱ったソックスレー抽出器等のガラス器具を洗浄や加熱処理しても低濃度域でのメモリーは避けられません。仮に0.1%の割合で残留が起きたとしても300ppmが残留することとなります。
    当社は特にご指定のない限り、溶媒抽出法を採用しています。溶媒抽出法では、基本的に全てのガラス器具を使い捨てとし、コンタミネーションを起こさないシステムを構築しています。
     

  • 各種樹脂からの目的物の抽出効率を確認すること…樹脂から目的対象物を抽出する場合は、樹脂と抽出溶媒の関係が非常に重要な意味を持ってきます。樹脂等の試料が抽出溶媒に非溶解であった場合、抽出効率の悪い溶媒で抽出を行っても、目的対象物は抽出されず結果的に「非含有の間違った判定」をしてしまう可能性もあります。このことは、ソックスレー抽出法であっても同様の現象が起こり得ることが当社の研究で明らかとなっています。
    当社は、たとえ非溶解溶媒であっても、複数回の分析で確認することで、含有されている試料を非含有と間違って報告することはありません。また、目的対象物が検出された場合、複数回の分析で再現されることを確認し、より確度の高い結果をお届けしています。
     

  • 内部標準物質での定性、定量を行うこと…PBB/PBDEは高臭素化体になるほどGC-MS中の応答性とその量との直線性がなくなってくることが当社の研究でわかっています。その中でも特にDeBDEはGC-MSに注入された絶対量でMSの応答量が変わってきます。そのため、安定同位体を用いた内部標準物質を、定量したい目的対象物の量比に近くなるよう添加して定量しないと、正確な値は求められません。
    当社は、PBB/PBDEについて入手できるすべての内部標準物質を用いて精度ある分析を行っています。特にPBDEは各臭素数毎に少なくとも1本以上の内部標準を加えることで、定量の正確性を上げています。また、内部標準物質及び目的対象物の天然同位体比をチェックすることで、臭素数の推定等の定性の確度も上げています。
     

  •  試料をなるべく細かく粉砕、破砕すること…試料からの目的対象物の抽出は、試料の粉砕状況に大きく左右されることがわかっており、より細かく粉砕・破砕することが要求されます。そのために凍結粉砕やグラインダ・ミル等の方法が取られます。しかし、実際の試料では1グラム以下の少量の試料を分析することも多く、一般に使われる方法では、散逸の危険性があります。また、ミル等の再利用する機器は容器の洗浄工程を経ても軸心周辺や上部カバーのノッチ付近に前試料の残留等の可能性があり、コンタミネーションの危険性が常につきまといます。
    当社はコンタミネーションの危険を限りなく低減した器具・道具で破砕を行うため、散逸の危険性をなくし、少量の試料にも対応しています。
     

  • 高分解能GC-MSを用いた高感度分析を行うこと…高分解能GC-MSを用いて分析することは、

    試料中の樹脂等妨害成分からの分離・高選択性による偽判定の回避…実例として、PBB/PBDE等の含有・非含有をめぐる意見が対立したような場合でも、高分解能GC-MSを用いた当社の方法が明確な判定に有効であった例が多数あります。
    極少量試料の分析を可能にする高感度化(実装された基板上の樹脂部材などの極少量の試料でも対応可能です)。当社では約0.01gの樹脂部材を分析した実績があります。※精米一粒は約0.02gといわれています。
    試料量の低減による精製負荷の低減
    使用試薬の低減による環境負荷への配慮

    といった面から強く支持されています。 

対象化合物

<化学構造式>

pbb00
pbb00
PBB PBDE

 PBB及びPBDEはそれぞれ上記に示す構造をもつ臭素系化合物です。PBB類は日本市場では販売実績がありません。PBDE類のうち、現在日本で販売されているのは、OctaBDEとDecaBDEです。
 一方、海外で生産・販売されているものも多く、海外調達品については確認試験をする必要が生じます。また、製造工程の履歴によっては過去に使っていた臭素系難燃剤の残さ(メモリー)が工程内に出ることがあり、現在の調達品が非含有であっても注意が必要です。
  特に、再生品や再生原料は過去に添加された複数の臭素系難燃剤の複合パターンを示すこともあり、部材のグリーン調達現場では一層の注意が必要となります。

分析・試験方法

<分析フロー>

PBB/PBDEの同族体別の定量値を算出→Total PBB/PBDE を示します。

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  当社では、PBB/PBDEの各臭素数毎の同族体について濃度を算出し報告するので、パターンから傾向をつかむことも比較的容易です。 また研究目的等のニーズによっては異性体毎の分析も可能です。

関連情報

PBB/PBDEに関する論文

1. Evaluation of polybrominated diphenyl ethers(PBDEs) standard by isotope dillution method using HRGC/MS : A case study.
Takumi Takasuga, Takemori Hiroaki, Abe Masahiro, Inoue Tsuyoshi (2002a) Organohalogen Compounds 55,187-190.(2002)
2. Impact of fermented brown rice with Aspergillus oryzae(FEBRA)intake and concentrations of polybrominated diphenylethers (PBDEs)in blood of humans from Japan
Takumi Takasuga, Kurunthachalam Senthilkumar, Hiroaki Takemori, Etsumasa Ohi, Hiroshi Tsuji, Junya Nagayama Chemosphere 57 (2004)795 -811
3. 有機臭素化合物(臭素化ダイオキシン類および臭素系難燃剤)の測定に係る相互検定研究-第一報: 混合標準溶液と風乾底質- 第13回環境化学討論会 (2004)
高橋真、酒井伸一、梶原夏子、田辺信介、濱田典明、渡辺功、阿久津和彦、汐崎憲、波戸義雄、高菅卓三、嶽盛公昭、大田壮一、中尾晃幸、長谷川俊樹、濱本弘実、宮崎徹、今村崇、松田壮一
4. Brominated Organic Contaminants in the Liver and Egg of the Common Cormorants (Phalacrocoraxcarbo) from Japan.
KIYOHIKO WATANABE, KURUNTHACHALAM SENTHILKUMAR, SHIGEKI MASUNAGA, TAKUMI TAKASUGA, NAOMASA ISEKI AND MASATOSHI MORITA Environ. Sci. Technol. 2004, 38, 4071-4077
5. 「臭素系難燃剤のGC/MS分析上の課題と検討」 第14回環境化学討論会(2005)
岩田直樹,林 篤宏,嶽盛公昭,服部雄次,本田 守,高菅卓三
6. 「有機臭素系化合物の分析化学的調査方法の開発」 第14回環境化学討論会 (2005)
松神秀徳,嶽盛公昭,大井悦雅,高菅卓三
7. 有機臭素化合物(臭素系難燃剤および臭素化ダイオキシン類)の測定に係る相互検定研究―第二報:廃TVケーシングと動物脂肪―」(第14回環境化学討論会(2005))
高橋真(愛媛大)、能勢和聡(国立環境研・循環センター)、酒井伸一(京大環保セ)、梶原夏子、田辺信介(愛媛大・沿環研センター)、高橋知史(愛媛大・農)、渡辺功、阿久津和彦(大阪府・公衛研)、藤峰慶徳、平井哲也(大塚製薬)、汐崎憲、波戸義雄(カネカテクノリサーチ)、高菅卓三、嶽盛公昭(島津テクノリサーチ)、太田壮一、青笹治(摂南大・薬)、長谷川俊樹、濱本弘実(帝人エコサイエンス)、宮崎徹、今村崇(ニッテクリサーチ)、濱田典明、松田壮一(三浦工業)
8. ISOTOPE DILUTION ANALYSIS OF POLYBROMINATED -DIPHENYL ETHERS AND -BIPHENYLS FROM WASTE ELECTRIC AND ELECTRONIC EQUIPMENTS (WEEE) WITH HRGC-HRMS
Takumi Takasuga, Kurunthachalam Senthilkumar, Hiroaki Takemori,Kiyohiko Watanabe, Atsushi Hayashi, Naoki Iwata and Etsumasa Ohi Organohalogen Compounds 1773-1775.(2005)
9. 「RoHS/WEEE指令に係る臭素系難燃剤の分析上の課題と検討」 第15回環境化学討論会(2006年)
林 篤宏, 岩田 直樹, 松神 秀徳, 本田 守, 嶽盛 公昭, 高菅 卓三
10. 雑誌 「産業と環境」p69-72「RoHS指令における臭素系難燃剤~正しい分析をするために~」 (2006年8月)
11. 「WEEE&RoHS指令に係る臭素系難燃剤の分析上の課題と検討」 第42回日本環境化学講演会
講演者 : 林 篤宏 (2006年11月)
12. 「RoHS指令等各種規制における臭素系難燃剤の分析上の現状と課題」 第43回日本環境化学講演会
講演者 : 林 篤宏(2007年3月)

20210519