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ダイナミック超微小硬度計による薄膜の硬度評価

2019年09月19日更新

概要

 ビッカース硬さは金属材料において引張強度との相関関係が知られており、特別な試験片を作らなくても容易に測定できることから広く実用的に用いられています。しかし測定においてはくぼみの大きさを顕微鏡で計測する必要があり、精度を確保するために十分なサイズのくぼみ(20μm以上)をつけると、約30μm以下の薄膜ではその下の母材の硬さの影響を受ける可能性があります。
 ダイナミック超微小硬度計DUH-211Sはこのような薄膜試料においても試験可能な硬度計であり、ISO規格に沿ったビッカース硬さへの換算機能も保有しています。
 今回は、組成および膜厚の異なるシリコン上の薄膜の硬度評価を行った事例を紹介します。

分析・試験方法

図1 試料固定方法(概略図)

図1 試料固定方法(概略図)

試験機 ダイナミック超微小硬度計 DUH-211S
(島津製作所製)
試料 SiO2(1.1μm)/Si(シリコン上SiO2薄膜)
Si3N4(1.2μm)/Si(シリコン上Si3N4薄膜)
測定圧子 稜間角115°三角錐圧子
(ダイヤモンド製)
試験の種類 負荷・除荷試験
最大試験力[mN] 2.50(注1)
最小試験力[mN] 0.02
負荷速度[mN/sec] 0.1463
負荷保持時間[sec] 5
除荷保持時間[sec] 5
試験方法 試料を図1に示す薄物用アタッチメント3形で固定し、n=3で試験を行い、平均値で評価しました。
(注1)  薄膜の場合、膜厚の約1/10以下の深さまでの測定にすることにより、下地(母材)の影響を受けることなく薄膜のみの評価が可能です。
試験条件は、押しこみ深さが膜厚の1/10以下となる試験力を設定しました。

分析・試験結果

各試料の試験結果を表1および表2に、「試験力-押し込み深さ」の重ね描きグラフを図2に示します。
硬度評価は、マルテンス硬さ(HMT115)と換算ビッカース硬さ(HV*)にて行いました。

図2 試験力-深さグラフ

図2 試験力-深さグラフ

表1  SiO2(1.1μm)/Siの試験結果

  Fmax hmax HMT115 HV*
[mN] [μm] [N/mm2]
1 2.52 0.1020 2442.9 492.3
2 2.51 0.1007 2478.0 542.4
3 2.53 0.1018 2456.2 498.2
平均 2.52 0.1015 2459.0 510.9

 

表2  Si3N4(1.2μm)/Siの試験結果

  Fmax hmax HMT115 HV*
[mN] [μm] [N/mm2]
1 2.53 0.0693 4065.9 923.9
2 2.52 0.069 4083.4 878.3
3 2.52 0.0694 4057.4 852.8
平均 2.52 0.0692 4068.9 885.0
(注)表中の各記号の意味は、下記の通りです。
  Fmax 最大試験力
  hmax Fmaxにおける押し込み深さ
  HMT115 115°三角錐圧子によるマルテンス硬さ
  HV* 換算ビッカース硬さ

マルテンス硬さ(HMT115)は、次の式で計算しました。

HMT115= Fmax/(26.43×hmax2

HMT115は、装置の剛性などによるマシンコンプライアンス補正(Cf補正)と圧子先端の丸み等の影響である面積関数補正(Ap補正)を含んだ値です。

表1および表2より、マルテンス硬さ(HMT115)および換算ビッカース硬さ(HV*)の高い試料の順序は次の通りになります。

マルテンス硬さ(HMT115) ・・・ シリコン上Si3N4薄膜 > シリコン上SiO2薄膜
換算ビッカース硬さ(HV*) ・・・ シリコン上Si3N4薄膜 > シリコン上SiO2薄膜

また図2より、いずれの試料も再現の良い試験力-深さグラフが得られており、試料間の明確な差が得られました。

■まとめ

ビッカース硬度計では測定が困難な薄膜も、ダイナミック超微小硬度計 DUH-211Sを用いることで、マルテンス硬さを評価し、ビッカース硬さの推定が可能であることを示しました。

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