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熱分解-GC/MSハートカットEGA法による複合材料の発生ガス分析

2012年10月22日更新

概要

図1 試料サンプリング(アイブロー)

図1 試料サンプリング(アイブロー)

 熱分解-GC/MSは、高分子材料を不活性雰囲気下で瞬間熱分解後、生成する低分子化合物(フラグメント)から、もととなる高分子構造を推定する手法です。

 現在、熱分解-GC/MSでは複数のサンプリング法が考案されており、不溶不融の材料をはじめ、 縮合系ポリマーや複合材料などの、多くの高分子材料に適用が可能です。

 今回は、任意の複数の温度画分で発生するガスを選択的に分離分析するハートカットEGA法を用い、 溶剤や添加剤などの揮発性成分から基質ポリマーまで、さまざまな成分を含む複合材料(化粧品アイブロー)の分析事例を紹介します。

分析・試験事例

■シングルショット法(Py-GC/MS法) 分析結果

 熱分解-GC/MSの代表的なサンプリング法である、シングルショット法(加熱温度600℃)の熱分解パイログラムを図2に示します。 溶剤、添加剤、ポリマーの分解物など、種々のピーク情報が一つのパイログラム上に得られ、その情報は極めて複雑です。
 今回のような、とりわけ複雑な複合材料の場合、シングルショット法ではパイログラム上の各ピークが、 溶剤や添加剤などの揮発性成分由来か、あるいは基質ポリマーの分解物由来かを判別できず、本手法から得られる解析情報は、 限定的なものとなります。

※シングルショット法(Py-GC/MS法)とは
 試料を、基質ポリマーの分解終了温度+50℃程度に設定した熱分解炉に導入し、その分解物をGC/MSのスキャンモードで解析します。 簡便な操作から基質ポリマーの構造を推定できる反面、溶剤や添加剤を含む複合材料の場合は、全温度領域の情報が一つのパイログラム上に 反映されるため、詳細な解析は困難です。

図2 シングルショット法 熱分解パイログラム

図2 シングルショット法 熱分解パイログラム

■発生ガス分析法(EGA-MS法) 分析結果

 熱分解-GC/MSの発生ガス分析法より得られた、EGAサーモグラム(加熱温度50℃→600℃)を図3に示します。 今回の複合材料(化粧品アイブロー)では、A画分(50→140℃)からE画分(425℃→600℃)まで、 計5つの温度範囲に発生ガスが分布していることがわかります。

※発生ガス分析法(EGA-MS法)とは
 熱分解炉とGC/MSの検出器間を、成分非保持の不活性素管で直結し、試料の昇温加熱による発生ガスをトータルイオンクロマトより解析します。 ガス成分の特定は困難ですが、トータルイオンの大小関係から、温度あたりの発生ガス量の分布を把握できます。

図3 発生ガス分析法 EGAサーモグラム

図3 発生ガス分析法 EGAサーモグラム

■ハートカットEGA法(EGA-GC/MS法) 分析結果

 EGAサーモグラムにおける各温度画分の発生ガスを分離分析した、熱脱着クロマトグラムおよび熱分解パイログラムを図4に示します。 詳細な定性分析の結果、各温度範囲の発生ガスにおいて、以下の情報が得られました。

A画分(50℃→140℃)
 アセトアルデヒドのほか、アセトン、メチルビニルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤が検出され、 ポリマー分散剤としての添加が伺えました。

B画分(140℃→225℃)
 天然保湿剤として使われる、スクワランのシングルピークが得られました。

C画分(225℃→315℃)
 エタノール、ブタノール、エトキシエタノールなど、アルコール系の成分が検出されました。A画分およびB画分では、 これらの成分は未検出だったことより、これらは溶剤ピークではなく、基質ポリマーの熱分解ピークであることが伺えます。

D画分(315℃→425℃)
 メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルなど、アクリルポリマー由来の熱分解モノマーが複数検出されました。 試料の基質主剤は、アクリルポリマーであることが示唆されました。

E画分(425℃→600℃)
 わずかにシリコンポリマー由来の、D3、D4環状シロキサンが検出されたほか、試料のカーボン由来と思われる微量の環式化合物(BTX)が検出されました。

※ハートカットEGA法(EGA-GC/MS法)とは
 EGAサーモグラムの、任意の複数の温度画分で発生するガスについて、最大8画分を連続的に分取し、GC/MSで分離分析する手法です。 溶剤、添加剤などの揮発性成分から基質ポリマーまで広範な温度範囲の発生ガス成分を把握でき、さまざまな成分が含まれる複合材料の分析に効果的です。

図4 ハートカットEGA法 熱脱着クロマトグラム・熱分解パイログラム

図4 ハートカットEGA法 熱脱着クロマトグラム・熱分解パイログラム

 

 以上の結果より、今回の複合材料(化粧品アイライナー)には、揮発性成分としてケトン系溶剤およびスクワランが含まれ、 基質ポリマーとして、主剤のアクリルポリマー、微量のシリコンポリマーを含むことが推定されました。
 未知高分子材料、特に複数の揮発性成分やポリマーを含む複合材料の定性において、熱分解-GC/MSのハートカットEGA法を用いることにより、 FTIR法や熱分析法、NMR法など、ほかの分析法だけでは得がたい、詳細な組成把握が可能となります。

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