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セルロースナノファイバーの評価

概要

セルロースナノファイバー
Cellulose Nanofibers:CNF
セルロースナノファイバーは軽い、強い、硬いといった物理的な特徴を有する高機能素材です。強化・軽量化された複合材料として自動車部材に用いることにより燃費改善が望めるなど、環境にも配慮した材料として注目されています。

 当社では、 CNFの性質を知るための、CNFの形状、化学構造、分散性などの物性評価に加え、 CNF複合材料の品質評価として、熱特性評価、材料強度試験などを行っています。

 CNF関連の製造や開発に携わるお客様のご要望にお応えできるよう、下記の評価項目をご紹介します。
なお、その他の項目も対応させていただきますのでお気軽にご相談ください。

分析・試験項目

項目 測定内容 装置 ポイント
材料強度
機械特性
3点曲げ試験 s13_cnf_f
精密万能試験機 CNFの添加による樹脂材料の曲げ強度、曲げ弾性率の向上を確認できます。
高速引張試験 s13_cnf_f
高速引張試験機 CNF添加による樹脂材料の強度の変化や、広範囲な引張速度での引張強度試験が可能です。
パンクチャ衝撃試験 s13_cnf_f
高速衝撃試験機 混練する樹脂材料の違いによる衝撃試験時の破断の評価ができます。
ひずみ分布測定 s13_cnf_f
Aramis3Dカメラ
DIC解析(デジタル画像相関法)
複合材料の引張、圧縮、曲げ試験時の応力集中部の特定やひずみ分布の特定ができます。
観察
形状観察
繊維分径、繊維長の計測
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3D測定レーザー顕微鏡
走査型プローブ顕微鏡(SPM)
形状や大きさを制御することが複合材料の機械特性向上の鍵です。
内部監察 s13_cnf_f s13_cnf_f
マイクロフォーカス
X線CTシステム
CNFが樹脂中に解繊せず、塊状に存在するかどうかの分散性を非破壊で観察できます。装置内で複合材料の機械試験をしながら、破壊の様子を観察できます。
化学構造
修飾官能基の定性 s13_cnf_f
フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR) 透明性や分散性など様々な特性を与えるための表面改質の有無とその種類を調べます。
構成糖成分の分析 s13_cnf_f
高速液体クロマトグラフ(HPLC) 構成糖成分分析により、糖組成を明確にし、CNF中セルロース純度の測定を行います。
原料評価
>金属の定性・定量分析 s13_cnf_f s13_cnf_f
ICP発光分光分析装置(ICP-OES)
ICP質量分析装置(ICP-MS)
添加された金属や原材料に含有される元素の種類や量を把握し、品質管理に役立てます。
エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)
走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)
分散性評価
> 透過率測定 s13_cnf_f
紫外可視分光光度計(UV-VIS) 添加された金属や原材料に含有される元素の種類や量を把握し、品質管理に役立てます。
繊維長・分散性評価 s13_cnf_f
粒子径分布測定装置(SALD) CNF水分散液の透過率を測定することにより、CNFの分散性や透過性を評価できます。
熱特性
熱重量測定 s13_cnf_f
示差熱・熱重量同時測定装置(TG-DTA) 熱安定性を評価するために、耐熱性の指標となる分解開始温度の違いを調べます。
融解熱量の測定 s13_cnf_f
示差走査熱量計(DSC) 融解熱量を測定することにより、熱可塑性樹脂中のCNF含有量の違いを調べることができます。

 

材料強度・機械特性

3点曲げ試験

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  精密万能試験機AGS-Xおよびたわみ測定装置を使用し、高密度ポリエチレン(HDPE)とHDPE+CNF5%の3点曲げ試験を行い、CNFの有無による曲げ強度の比較を行いました。
 下図に曲げ応力ー曲げひずみ線図を示します。
 CNFを添加したHDPE+CNF5%は最大強度を示したあと、試験力が急激に低下し、脆性的に破断しました。CNF未添加のHDPEでは、試験力が緩やかに低下し、延性的に破断しました。
 下表に試験結果を示します。
 グラフの最大曲げ応力を曲げ強度、グラフの傾きから曲げ弾性率を算出しました。CNFを添加したHDPEの方が曲げ弾性率、曲げ強さ共に高い値となることが分かりました。CNFによりHDPEを複合材料化することで曲げ強度、曲げ弾性率が高くなることが分かりました。

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図1 曲げ応力ー曲げひずみ線図

表1 試験結果
  曲げ弾性率(GPa) 曲げ強さ(MPa)
①HDPE 1.29 55.2
②HDPE+CNF5% 1.59 61.8

 ・ 高精度な曲げ試験が可能です。 

高速引張試験

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 高密度ポリエチレン(HDPE)およびHDPE+CNF10%の7水準の引張速度(ひずみ速度0.0001~100/s)における引張試験を行いました。
 下図に7水準のひずみ速度毎の応力-変位線図を示します。
 HDPEおよびHDPE+CNF10%ともに引張速度が高速なほど引張強さが高くなっており、引張強さの引張速度依存性が確認出来ます。また、破断変位は引張速度が高速なほど減少する傾向が確認出来ます。

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図1 応力-変位線図
(a) HDPE (b)HDPE+CNF10%

 ・ 広範囲な引張速度におけるCNF樹脂複合材料の引張試験が可能です。

パンクチャ衝撃試験

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図1 試験力-変位線図

 三種類のCNF樹脂複合材料のパンクチャ衝撃試験および高速度カメラ撮影を行いました。
 ①ポリプロピレン(PP)+CNF10%、②高密度ポリエチレン(HDPE)+CNF10%、③ポリアミド(PA)+CNF10% 図1に各材料の試験力-変位線図を示します。
 ①PP+CNF10%および②HDPE+CNF10%は、脆性的な破断を示しました。一方、③PA+CNF10%は延性的な破断を示しました。
 画像1~3に破断直後の高速度カメラ画像を示します。

 ・ 高速度カメラを使用することにより、破断の様子を克明に可視化することが可能です。

ひずみ分布測定(DIC解析)

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DIC解析によるひずみ分布解析事例

 圧縮・引張試験などを行った際に生じるひずみ分布のDIC解析を行うことができます。DIC解析とはデジタル画像相関法(Digital Image Correlation)のことで、試験片の表面に白と黒とスプレーでランダムパターンと呼ばれる模様を施し、試験中のひずみ分布の時間的変化を多点計測により解析する手法です。2台のカメラで撮影した画像を同期することで3次元的な解析が可能となります。色が赤く変わっているエリアのひずみが大きくなっており、面的なひずみの変化がカラーマップで鮮明に捉えられています。

DIC解析の事例はアプリケーションズの機械試験からご覧ください。

観察

形状観察、繊維長・繊維径の評価

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形状観察、繊維長・繊維径の評価

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  樹脂複合材料への応用が期待されているCNFは、解繊手法により、個々のCNFが独立した孤立分散型や様々な繊維を含むネットワーク型などの形態をとり、その形態は複合材料の機械特性を左右する重要な因子です。CNFの形状や大きさを制御することが複合材料の機械特性向上の鍵であり、その評価に共焦点レーザー顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡(SPM)が用いられています。下記の分析例は、液中分散されたCNFを基板上に展開して大気中で観察した結果です。

>  形状

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>  繊維長・繊維径

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CNFや樹脂複合材料の機械特性(弾性率や吸着力、変形量)も評価できます。
加熱(室温~300℃)及び湿度(~RH60%)雰囲気下での測定も可能で、熱や湿度によるCNFの形状、機械特性の変化を評価できます。

内部形状評価

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内部形状評価

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 CNFを樹脂やゴムに分散させることで、強度、寸法安定性、軽量化などの品質特性の向上が期待されます。
 CNFを含有した樹脂(CNF樹脂複合材料)の評価方法の一つとして、プラスチックの内部構造や繊維の分散状態を観察するために、X線CTシステムが用いられています。
 CNFを10wt%添加した三種類の樹脂の内部観察を行いました。
 ①高密度ポリエチレン(HDPE) +CNF10%、②ポリプロピレン(PP) +CNF10%、③ナイロン6(PA6) +CNF10%
 下図は内部の任意断面画像です。密度が高い箇所は白く、密度が低い箇所は黒く表示されています。
 ①HDPE+CNF10%、②PP+CNF10%は、白い線状や塊状の介在物が観察されており、これはCNFを作成する際に解繊されなかった数十μm以上のセルロース繊維だと考えられます。
 ②PP+CNF10%は白い塊状の介在物が他の二種類より多く観察されており、分散性が最も悪いと考えられます。
 ③PA6+CNF10%は白い線状や塊状の介在物が、わずかしか観察されなかったことから、最も分散性が良いと考えられます。

 ・ X線CTシステムと機械試験を組み合わせ、複合材料の強度試験を行いながら内部の変形や破壊の様子を観察できます。

化学構造

修飾官能基の定性

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 CNFは、表面の官能基を修飾することで、多種多様な機能を付与することができ、自動車部品、電子材料、梱包材料などへの応用が期待されています。その修飾官能基の評価に、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)が用いられています。
 下図は、木質由来CNF、工業用途で広く利用されているTEMPO酸化CNF、食品用途の添加剤に利用されているCMCの修飾官能基を分析した結果です。CMCとTEMPO酸化CNFからは、カルボン酸塩のCOO-由来のピークが見られます。

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図 赤外スペクトル

構成糖の評価

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 CNFの構成糖は、原料の種類や部位、生育地、製法によって異なることから、安定した品質のCNFを供給するためには、構成糖の把握が重要となります。HPLC還元糖分析システムを用い、CNFの構成糖を分析することができます。
 下記の図1は標準試料のクロマトグラム、図2は原料の種類や製法の異なるCNFを加水分解して単糖にし、分析・解析して、構成比率を棒グラフで示したものです。

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図1 標準試料のクロマトグラム

図2 CNF構成糖比率

 ・ CNFの構成糖を評価することができます。
 ・ 本システムは、糖を選択的に高感度で分析することができます。

原料評価

金属の定性・定量分析

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金属の定性・定量分析

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 TEMPO由来のCNFのカルボキシ基のナトリウムイオンは、簡単にイオン交換することが可能と言われており、近年、ナトリウム以外の金属イオンとイオン交換して、多種多様な物性変化、機能付与をする研究開発が行われています。
 また原料が植物由来のため、原産地などにより含有金属元素に相違がみられます。

 ICP発光分光分析装置(ICP-OES)とICP質量分析装置(ICP-MS)を併用することで、CNFに含まれる微量金属元素(約72元素)の定性・定量分析を行うことができます。
 また、蛍光X線装置では、 X線を試料に照射して分析を行うため、化学的な前処理することなく、元素分析(対象元素:11Na~92U)が可能です。CNFの置換基に含まれる元素(添加剤など)の分析に有用です。
 走査型電子顕微鏡では、試料に電子線を照射することでSEM像が得られます。光学顕微鏡では確認できない数万倍の倍率で観察でき、付属のEDSにより微小領域の元素分析(対象元素:5B~92U)も可能です。 CNFを構成する繊維の構造や、繊維に含まれる添加剤等の確認、元素分析に有用です。

測定可能な元素(ICP-OES、ICP-MS)

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分散性評価

透過率測定

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 CNFは繊維径や形状によって水分散性が異なります。繊維径が小さい孤立分散型CNFは、官能基修飾などの表面処理により水中では凝集せずに分散し、透明になります。繊維径の大きなネットワーク型CNFはさまざまな大きさや形状を含んでおり、水中では水素結合などにより凝集しやすく、白濁します。紫外可視分光光度計を用いてCNF水分散液の透過率を測定することにより、CNFの分散性を評価することができます。
 CNF表面の官能基を修飾したCMC、TEMPO酸化CNFは、木質由来CNFに比べて、透過率が高い値を示したことから、分散性が高いといえます。

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繊維長・分散性評価

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 CNFは、繊維径、製法によって水中での分散性が変わります。CNFの分散状態を確認するために、循環させただけの状態と、循環させた状態で超音波を照射した状態を比較し、分散状態が変化するかの確認もあわせて行いました。
 その結果、CNF表面の官能基を修飾したCMCは、処理(超音波照射による分散処理)に関わらず、粒度分布が変わらないことがわかります。これは水中で分散状態が安定しているためと考えられます。

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超音波処理なし

超音波処理あり

熱特性

熱重量測定

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 CNFは、結晶化度や重合度(繊維長)の違いにより性質が大きく異なり、耐熱性の指標となる分解開始温度に違いが見られます。
 木質由来のCNFと高純度セルロース試薬(純度97%以上)の熱重量測定を行い、それらのTG曲線を比較しました。
 CNFは140℃付近と260℃付近に2段階の減量(分解)、セルロース試薬は260℃付近のみに減量(分解)が見られ、重量減少の差を捉えることができました。

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図 TG曲線

融解熱量の測定

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 CNF強化樹脂複合材料の中で、熱可塑性樹脂はリサイクルが可能です。CNF強化樹脂の融解熱量を測定することにより、リサイクル品のCNF含有率を推定することができます。
 示差走査熱量計(DSC)を用いて、CNF強化樹脂の融解熱量を測定することができます。
 CNFの含有量が異なる熱可塑性樹脂のDSC曲線から、融解熱量を求めました。CNFの含有量が多くなるにつれて、融解熱量が減少することがわかります。

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 ・ その他の熱特性評価として、熱機械分析(TMA)でCNF強化樹脂複合材料の熱膨張係数も測定することができます。 

 20201105