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考古学資料のリバースエンジニアリング

2017年11月21日更新

分析・試験事例

 歴史的価値の高い資料の構造や製作過程を解明することにより、技術の発祥地や、 普及時期についての情報を得られるだけでなく、当時それを所有した人々の身分や生活を知ることもできます。 しかし、出土する資料はいずれも極めて貴重な文化遺産であるため、破壊を伴うような調査はできません。 今回、広島大学大学院文学研究科 考古学研究室 野島永教授並びに大学院生名村威彦様のご厚意により、 撮影させていただき、得られた画像の解釈および解説についても詳しくご教示を賜りました。

広島大学考古学研究室所蔵 須恵器鳥形瓶

須恵器鳥形瓶

サイズ:幅9.4×長さ9.6×高さ12.5cm
左羽部分と腹部は石膏で修復

 須恵器は古墳時代中期以降、日本で製作することが可能になった焼き物です。 古墳時代後期になると、動物をかたどった須恵器がいくつか製作されます。この資料も、古墳の副葬品として製作されました。東アジアにおいて鳥は古くから人の魂を運ぶ動物として捉えられてきたと考えられており、この鳥形瓶もそうした文化の影響を受けて作られ、古墳に副葬されたと考えられます。このような意匠の須恵器は、どのような経緯で製作されたか不明であり、構造の解明は当時の文化を考えるうえで非常に重要です。

須恵器鳥形瓶

三次元立体像

  三次元立体像より、内部にらせん状痕跡(右図 矢印)が確認できました。 この須恵器は、紐作りという陶芸技術を用い、おしり側から胸側に向かって、粘土紐を巻き上げた製作方法であったことが分かりました。 さらに、おしり側から胸側へ粘土紐を巻き上げた後の最後の穴の痕跡(左図 赤丸)と、 口頸部の根元を撫でた痕跡(左図 黄丸内の緑線)が確認されました。上記画像の痕跡からおもな製作工程は、 下記のように推察されます。

おしり側から、胸側へ粘土紐を巻き上げて胴部を作る
胸側に口頸部を取り付ける
粘土紐を巻き上げた後に残る胸側の穴を円板で蓋をする
口頸部が外れにくいように、口縁からヘラ状のものを差し込み、押し当てて撫でる

 従来より広く用いられてきたX線透視像にくらべ、高精細なX線CTによる3次元の構造のスキャニングと、その仮想的な断層像、断面画像は、考古学資料内部構造のディテールを描き出すことができます。非破壊で手軽に利用できる観察方法でありながら、種々の考古学資料の構造と、それらの情報から類推される当時の製作方法の解明(リバースエンジニアリング)に役立つと考えられます。

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