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インジウム・スズ化合物(ITO)の元素分析

2012年12月18日更新

概要

 インジウム・スズ酸化物(ITO)は、薄型ディスプレイ・タッチパネル・太陽電池等の透明電極原料として、近年広く使われるようになった材料ですが、一方で、ヒトに対して「おそらく発がん性がある物質」であることが分かってきました。
 厚生労働省は、インジウム・スズ酸化物等の取扱い作業による健康障害防止に関する技術指針(平成22年12月22日付け基安発1222第2号の別添1)で、ITO作業場における作業環境管理や健康管理等の方法を定めています。
 ここでは、市販のITO試薬を用い、ICP発光分光分析法とICP質量分析法とでそれぞれインジウム(In)定量分析を行った事例を報告します。

分析・試験事例

■ICP発光分光分析法によるIn定量

 市販のITO試薬(酸化インジウム(III):酸化スズ(IV)=9:1混合物の2-プロパノール懸濁液)を希釈したものを、上記指針記載の方法で前処理し、ICP発光分光分析装置に導入しました。
  なお、Inの発光スペクトルは定量に適さない波形をしたものが多く(図1)、今回は測定波長を325.609nmとしました。

図1 ICP発光分光分析法によるITOのIn発光スペクトルの例

図1 ICP発光分光分析法によるITOのIn発光スペクトルの例

■ICP質量分析法によるIn定量

 上記で調製した溶液をさらに希釈してICP質量分析装置に導入しました。四重極型ICP質量分析装置でのIn定量では、Inピーク位置(m/z=113および115)にカドミウム(Cd)やスズ(Sn)のピークが重なり(表1および図2)、高値となる可能性があるため、EPA Method 200.8等の干渉補正式を用いました。

(干渉補正式) 113In=Cnt113-(0.1222/0.1280)×Cnt111 (113Cdの重なりを補正)
115In=Cnt115-(0.0034/0.2422)×Cnt118 (115Snの重なりを補正)
ただし、Cnt(数字)は、m/z=(数字)におけるピーク強度

表1 Cd, In, Snの天然同位体比

質量数 天然同位体比
Cd In Sn
106 0.0125 - -
108 0.0089 - -
110 0.01249 - -
111 0.1280 - -
112 0.2413 - 0.0097
113 0.1222 0.0429 -
114 0.2873 - 0.0066
115 - 0.9571 0.0034
116 0.0749 - 0.1454
117 - - 0.0768
118 - - 0.2422
119 - - 0.0859
120 - - 0.3258
122 - - 0.0463
124 - - 0.0579
図2 ICP質量分析法によるITOのMSスペクトルの例(m/z=106~120)

図2 ICP質量分析法によるITOのMSスペクトルの例(m/z=106~120)

■In定量結果

 上記の測定結果と定量下限を表2に示します。
 ICP発光分光分析法とICP質量分析法では、数1000倍の感度差が認められました。

表2 ITO試薬中In定量結果

測定方法 測定結果(n=5) (μg/g) 定量下限 (μg/g)
ICP発光分光分析法 325.609nm 3270± 50 76
ICP質量分析法 m/z=113(補正) 3180± 50 0.022
m/z=115(補正) 3180± 40 0.034

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