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Dioxin2016 (36th International Symposium on Halogenated Persistent Organic Pollutants) 参加報告

2016年9月2日更新

学会発表・論文 学会参加報告 Dioxin国際会議

Dioxin2016 (36th International Symposium on Halogenated Persistent Organic Pollutants) 参加報告

高菅卓三

dioxin2016

開催期間:2016年8月28日~9月2日
開催地:Palazzo dei Congressi, Florence, Italy
関連情報:http://www.dioxin2016firenze.org/ をご覧ください。
なお過去の会議情報は以下で閲覧可能です。
http://www.dioxin20xx.org/

【本国際シンポジウムの概要】

会場

本会議は1980年から開催されている、残留性有機汚染物質(POPs)に関する国際シンポジウムで通称“ダイオキシン20##”と呼んでいます。例年は40以上の国から800~1000名ほどの研究者が参加します。
スポンサーも30以上と、POPsに関する最大級の国際シンポジウムとなっています。
Dioxin 2016 はセベソの事故“Seveso” accident (July 10th, 1976)から40周年を記念してイタリアで開催されました。会議の主催者Prof. Paolo Mocarelli は当時、この事故の対応をされていた方です。
Symposium Chairs, Dioxin 2016 Prof. Paolo Mocarelli, Prof. Paolo Brambilla

 

「セベソ事件」とは

セベソのイクメサ工場では、当時農薬の2,4,5-Tを製造しており、その爆発事故で毒性の強いダイオキシン類が生成して町に拡散し、家畜などの大量死や、2,3,7,8-TCDDの高濃度暴露によると考えられる皮膚炎塩素挫創(クロルアクネ)の発症を招きました。また、高濃度の汚染を受けた地域の700名以上が強制退去させられました。一般市民、特に子供への被害や環境リスクが高まった初めてのケースで、人と産業と環境のありかたの見直しのきっかけとなりました。
また、事故により生じた汚染土壌はドラム缶に封入・保管されていましたが、1982年に行方不明になり、1983年に北フランスで発見されました。この事故を受けて1982年にEC(欧州共同体、現在の欧州連合、EU)は、有害物質による汚染を減らし人々の安全を守るための規制を求めた指令「セベソ指令」を発行し、1985年までに実施するよう加盟各国に求めました。同指令はその後も改正が行われています。また、セベソ事件のほかにも、有害物質による環境汚染や国境を越えた移動などの問題が世界各地で続発したため、1989年に「有害廃棄物の越境移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」(バーゼル条約)が採択されました。

このDioxin2016会議では、特により若い世代(StudentsとResearchers)に対して積極的に発表や研究を支援する体制を前面に出し、5人の学生による5分の基調講演は後のsessionでの「若いResearcher」として選ばれ、加えて研究補助もサポートされます。
参加者の上位は日本(約70)が一番多く、次いで米国(約60)、イタリア(約50)です。アフリカ諸国からの参加も増えてきおり、EU圏の参加者は多い印象でした。
今回は、発表演題数560(口頭239、ポスター321)と昨年(サンパウロ)よりも多く、例年程度の規模であったと思われます。
会場は街中にも歩いて行ける距離であり、街全体が世界遺産そのものですので非常に趣のある会となりました。

【基調講演】

基調講演は、以下の5題と円卓のセッションもおこなわれました。

 ・ Dioxin and human health. 40 years of learning from Seveso P. Mocarelli(Sevesoの事故から40年で学んだダイオキシンの健康影響)
 ・ Back to the Future of Dioxin Analyses D. Patterson - J.-F. Focant(ダイオキシン分析へのBack to the Future)
 ・ Advances in Toxicology of Dioxins POPs M. Denison - M. van den Berg(ダイオキシンPOPsの毒性学の進展)
 ・ Metabolomics, POPs and endocrine disruption D. Zalko( POPs, 環境ホルモンのメタボロミクス)
 ・ Epidemiology of POPs T. Webster.(POPsの疫学)
 ・ What is the meaning of environmental justice: does it still mean the same in the 21st century? J. Lovell(環境の正義の意味とは: 21世紀中もまだ同じ意味を持つか?)
 ・ ROUND TABLE POPs in feed and food: the European perspective G. Scortichini(食品と飼料のPOPs円卓会議:ヨーロッパの展望)

【主なトピック】

発表は各セッションに細分化されています。
詳細は以下のサイトをご参照ください。
http://dioxin2016firenze.org/materiale/programme_final.pdf

 1. Analytical, Screening and   Confirmatory Methods (5セッション)
 2. New methods of Analysis (2セッション)
 3. Advances in Passive and Other Sampling Strategies
 4. Is Exposure to PFASs a New Concern for Humans and   Wildlife? (4セッション)
 5. Advances in Toxicology of POPs (including mechanistic aspects)
 6. POPs in waste streams : emissions and implications (2セッション)
 7. Brominated Flame Retardants (2セッション)
 8. Seveso Accident: 1976 - 2016
 9. Human Exposure (3セッション)
 10. Levels in Food and Feed (2セッション)
 11. POPs and Risk for Human Health
 12. POPs Transport, Distribution and Bioaccumulation in Remote   Areas (3セッション)
 13. Formation Mechanisms of unintentional POPs
 14. Application of BAT/BEP to reduce or eliminate POPs (2セッション)
 15. Risk Assessment and Policies
 16. Environmental Food Security
 17. Modelling
 18. Alternative Flame Retardants
 19. Atmospheric Sources and Behavior of POPs
 20. Regulation addressing POPs (all media)
 21. Levels in the Environment (Air, Soil, Water) (4セッション)
 22. Levels in Wildlife
 23. Wildlife Toxicology
 24. Exposure to POPs in Urban, Indoor and Workplace Environments
 25. Biomonitoring
 

開催国や地域に関連したセッションが多く、東南アジア地域のPOPsの問題のセッションやベトナムのセッションが無いのが残念でした。
残念ながら、口頭発表が15分と短くなりかなりタイトなスケジュールでした。例年の20分の方が内容的にはよかったと思われます。 ポスターセッションもわずか45分であり、その日のうちに掲示して撤去するというもので、会場全体には広いスペースがあるにもかかわらず、 狭いレイアウトで参加者からの不満も出ていて、非常にもったいない印象を受けました。

会議の様子(筆者発表)

会議の様子(筆者発表)

化学物質としては、PRE-SYMPOSIUMでも話題になった、殺菌剤のトリクロサン、トリクロカルバン(Triclocarban)について、使用を規制するよう科学者の署名活動がありました。Dechlorane Plus関連物質、有機リン系難燃剤の室内汚染、日本の地震災害後の有機フッ素系化合物(PFCs)の挙動、中国のPAH等の大気汚染、食品の安全性評価、セベソから40年など様々なテーマの発表がみられました。
分析に関連しては、Analytical, Screening and Confirmatory Methodsが5セッションもあるように、測定分析に関しては新たな取り組みが見られました。特に機器分析技術では、昨年に続きMS技術の進展に関するものが多くありました。GC-HRMSの代用の可能性のあるGC-MS/MS、TOF-MS、APGC-MS/MS (Waters)、GC-Orbitrap MS (Thermo)、LC-APCI-TOF-HRMSの発表などがありました。
基調講演のBack to the Future of Dioxin Analysesは分析化学の基礎からMSの歴史から将来展望まで幅広くJ.-F. Focant氏が講演されました。
その他、ハイスループット分析、前処理自動化技術、スクリーニング分析、高感度、高分解能がテーマの発表が多数ありました。

●著者口頭発表 

POPS MONITORING TECHNIQUES AND RESULTS FROM FREQUENT MONITORING OF AMBIENT AIR AT SUPER SITE, JAPAN T. Takasuga1, M. Yamashita, H. Takemori, T. Nakano, Y. Shibata

【その他】

筆者はこの会議(Dioxin 20##)に25年以上も参加し、参加者の中では古株です。この会議では、国内外の研究者とのネットワークも多数でき、最前線の研究活動や情報交換を行うことができます。今後も、グローバルネットワークを通じた国際的な共同研究や人的ネットワークの維持拡大などに努めたいと考えております。
なお、会議では、Dioxin2020がフランスのナントで開催されることが正式に決定しました。Dioxin 2017はバンクーバーVancouver、Dioxin2018はポ-ランドのクラコウKrakowです。3年後のDioxin2019は京都で開催されます。日本での開催は4回目(1986年福岡、1994年京都、2007年東京)、京都での開催は25年ぶりになります。地元開催に向けた運営の準備をしていきたいと考えております。

【フィレンツェとは】

語源;古代ローマ時代、花の女神フローラ(Flora)の町としてフロレンティア (Florentia)と名付けた事が語源とされています。周辺国ではフィレンツェのことを、英語でFlorence(フローレンス)、スペイン語でFlorencia、ドイツ語でFlorenz、フランス語でFlorencと呼ぶことにもその名残が見られます。 イタリア共和国中部にある都市で、その周辺地域を含む人口約36万人の基礎自治体でトスカーナ州の州都、フィレンツェ県の県都です。
(出典フィレンツェ - Wikipedia) 京都とも姉妹都市です。
中世時代15世紀のフィレンツェは、ボッティチェッリ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロなどの巨匠が活躍するルネサンス文化の中心地となって学問・芸術の大輪の花が開きました。 市街中心部は「フィレンツェ歴史地区」としてユネスコの世界遺産に登録されています。観光はサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(ドゥオーモ)、サンタ・クローチェ聖堂、サン・ロレンツォ聖堂、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会、ウフィツィ美術館などの歴史的な建造物が中心となります。 フィレンツェは町全体が統一されていてすべてが美術館のようです。
科学の父と呼ばれ、イタリアを代表する天文学者、物理学者、哲学者でもあるガリレオ・ガリレイもフィレンツェに関係があり、ガリレオが制作し使用した大小様座な望遠鏡や実験装置、美しいガラスの実験器具などが多数展示されています。

Palazzo Borghese  GALA DINNER 会場 Firenze Convention Bureau

Palazzo Borghese GALA DINNER 会場 Firenze Convention Bureau

サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(ドゥオーモ)と ジョットの鐘楼 Firenze Convention Bureau

サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(ドゥオーモ)と
ジョットの鐘楼 Firenze Convention Bureau

 

(写真 : 国見祐治)