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Dioxin2013 (33rd International Symposium on Halogenated Persistent Organic Pollutants) 参加報告

2013年8月30日更新

学会発表・論文 学会参加報告 Dioxin国際会議

Dioxin2013 (33rd International Symposium on Halogenated Persistent Organic Pollutants) 参加報告

高菅卓三

doxin2013

開催期間:2013年8月25日(日)-8月30日(金)
開催地:Hotel Inter Burgo, Daegu(テグ,大邱) Republic of Korea
URL:http://www.dioxin2013.org
Symposium ChairはProf. Jae-ho Yang, School of Medicine,Catholic Univ. of Daegu, Rep. Korea(Dioxin2001と同じChairman)
なお過去の会議情報は以下で閲覧可能です。
 http://www.dioxin20xx.org/

【本国際シンポジウムの概要】

daegu
本会議は1980年から開催されている、残留性有機汚染物質(POPs)に関する国際シンポジウムで通称“ダイオキシン20##”と呼んでいます。
最近では2007東京、2008バーミンガム(イギリス)、2009北京(中国)、2010サンアントニオ(USA)、2011ブリュッセル(ベルギー)、2012ケアンズ(オーストラリア)で開催されました。また来年以降では、2014マドリッドMadrid (Spain)、2015サンパウロSao Paulo (Brazil)、2016フィレンツェFlorence (Italy)、2017バンクーバーVancouver (Canada)まで決まりました。
例年40以上の国から800~1000名ほどの研究者が参加します。スポンサーも30以上と、POPsに関する最大級の国際シンポジウムとなっています。その発表内容も、分析化学、環境化学、分子生物学、毒性・健康影響、リスクアセスメント、リスクマネージメント、発生源対策など非常に多分野にわたります。
会場
今回の参加者は600人程度でしたが、韓国での2回目の開催で、北米やヨーロッパからは例年参加する親しいメンバーの一部は不参加でした。参加者数は上位から順に主催国である韓国>100、日本>100、中国>80、米国、台湾、ベトナム、スウェーデン、カナダ、ドイツ、ベルギー、オランダ、英国、イタリア、スペイン、スイス、フランス、ノルウェー、ロシア、ブラジルなどでした。また東南アジア、アフリカや中南米諸国からの参加者も増加しています。

韓国でも今年の夏は暑く、特に大邱は内陸部の盆地のため暑く感じました。大邱は過去に日韓ワールドカップ、世界陸上なども開催され、韓国では3番目に大きい都市とのことですが、最近ではインチョンに抜かれて4位であろうとのことでした。周辺地域には6つのUNESCO世界遺産もあります。
韓国での前回開催のDioxin2001は12年前、慶州(キョンジュ)で開催されましたが、まさにその開催期間中に米国でのテロ “9.11”が起こり、会場でも大変混乱していたのを思い出します。 

【基調講演】いずれもその分野で著名な方であり、且つ筆者も交流のある方々でした。

(1)  Prof. Jae-ho Yang (School of Medicine, Catholic Univ. of Daegu, Rep. Korea)
“Neurotoxicity of Persistent Organic Pollutants; Modes of Action and Health Effects”
(2)  Dr. Rainer Malisch (European Union Reference Laboratory for Dioxins and PCBs in Feed and Food, Freiburg, Germany)
“From Dioxins and PCBs in Feed and Food to Human Biomonitoring of POPs”
(3)  Dr. Eric Reiner (the Ontario Ministry of the Environment, Canada)
“The Analysis of Persistent Halogenated Organics - Past, Present and Future”
(4)  Dr. Yasuyuki Shibata (Center for Environmental Measurement and Analysis, National Institute of Environmental
Studies, Japan)
“Monitoring of Perfluorochemicals in East Asia; Towards Their Sound Management”

【主なトピック】

◎分析セッション (筆者 高菅はAdvanced in Instrument Techniquesセッションの座長を担当)

分析セッション

機器に関する話題としては、スクリーニング(Screening)、迅速化(Faster)、容易化(Simpler)、自動化(Automation)がキーワードです。試料量の最小化と装置の高感度化、目的物質のみのクライオフォーカス化による高感度化、分析の効率化を目指した前処理技術や、2つのGCからの効率的なMSへの導入・データ取り込みの最適化、GC条件最適化など。分析機器技術としては、二次元GC(GC×GC)、Tof-MS、APGC、MS/MS、QMS、HRMS、HRTof-MS、MS/MSでの高速スキャンとMRMスイッチング技術(島津製作所)などの進歩と高感度化へのアプローチが特に多い発表でした。20fg(フェムトグラム)のピークの検出感度をさらにターゲットフォーカスにより5fgまで達成した例などもあり、DBS(Dried Blood Spot)試料からのPOPsの検出。LC-MS/MSではPFCや生体内代謝物のオンライン測定へと展開しています。
Tof-MSは、高感度、超高速データ取り込み、高分解能、定量性の向上など、今後のGC-MS、LC-MS分野に発展する可能性や、二次元GC(GC×GC)との組み合わせによる更なる可能性も期待されている装置です。網羅的なフィンガープリントやパターン認識的なアプローチでも適用されています。 また、バイオアッセイと精密化学分析との融合も最近では外せないテーマです。

◎対象化学物質について

対象化学物質としてはPFOS,PFOAはじめフッ素系化合物(PFC)の研究の新たな進展、特に前駆体や代替品が普及された結果を反映する環境データ報告、海水面での光化学反応での増加も考えられる報告、塩素化-PAHの環境レベル、難燃剤としての有機リン系難燃剤、塩素系難燃剤のDechlorane類、臭素系ではHBCDのPOPs条約対象に伴う汚染レベルや環境挙動の報告、代替難燃剤などへの関心が多く発表されました。
臭素系難燃剤だけでなく、臭素化ダイオキシン類(PBDD/PBDF)は廃電子機器(e-waste)のリサイクル現場での燃焼生成による暴露に関心が高まっています。その他関心のあった臭素系難燃剤としては、Bis(2-ethylhexyl) tetrabromophthalate、12-bis(2,4,6-tribromophenoxyethane)などがあります。Deca-BDEは2014年に米国では撤回(withdrawn)されるとのことです。
その他、有機シリコン化合物(環状Siloxane)のセッションもあり、これは正確にはPOPsの定義に当てはまるかどうかは議論の余地がありますが、しかし環境中であらゆるところに検出され、分析技術的にはブランク低減が課題です。
化学物質の暴露については食事経由以外に、家庭用品、室内環境暴露、職業暴露、特に臭素系難燃剤については手から口への暴露が小児期に多いとの報告がありました。食品では脂肪分の多い魚介類でPCB、水銀、ヒ素暴露が顕著であるとの報告。途上国ではe-wasteのリサイクル現場での暴露リスクに関心が高まっています。

◎Unintentional formation of POPs(非意図的生成POPs)の特別セッション

Unintentional formation of POPs関係者

Unintentional formation of POPs関係者
(左から3番目が筆者) photo by Kunimi

これは昨年に続き、中野先生(大阪大)座長で開催された特別セッションです。
筆者らの発表した中国の塩素化パラフィン(CP)中のPOPs汚染の発表については反響も大きく、関心の高さを示していました。
現在、CPの生産量は中国、インドやアフリカなどあわせると年間で約100万トンとなり、生産量の急増が推定されています。本発表ではCPに不純物として含まれるPOPsが、非意図的に生成するPOPs(U-POPs)の排出インベントリーにも容易に影響する懸念について追跡調査報告をしました。
今後、世界的にもこれら化学工業製品の製造過程でのU-POPs汚染の監視が必要であるといえます。

“Unintentional POPs contamination of chemicals considering the large volumes production of chlorinated paraffins (CPs)” Takasuga T1, Nakano T2, Shibata Y3, (1:Shimadzu Techno-Research Inc., 2:Osaka University, 3:National Institute for Environmental Studies) 

上記に関連する報文が”環境化学”journal of Environmental Chemistry, 2013 Sep. Vol.23 No.3 (9月号)に掲載されます。

短鎖塩素化パラフィン(SCCP)については基調講演のDr. Rainer Malischの発表でも母乳での検出事例が報告されていました。筆者らも今回京都大学と共同で実施した日中韓の食事、母乳、および油脂の調査で、中国でのレベルが上がっている点をポスター発表し、Dr. Rainer MalischはじめCDCのDr. Andreas Sjodin、ドイツのDr. Roland Weberなど関係者らと深いディスカッションをしました。
“SCCPs contamination of food and mothers milk in East Asian region”  Takasuga T1, Nouda C1, Harada K2 and Koizumi A2, (1:Shimadzu Techno Research Inc., 2:Department of Health and Environmental Sciences, Kyoto University Graduate School of Medicine) 

【その他】

近年、当国際シンポジウムでは、ダイオキシン類など有機塩素系化合物から有機臭素系難燃剤、そして有機フッ素系へ、また、発生源低減からヒトや生体影響、生体内代謝物、さらにアジアやアフリカ地域へと研究テーマや関心が変わりつつあります。
特に今年は測定対象物質がNew POPs様化学物質や、より広い対象物質への広がりを見せ、新たな分析技術に関する発表も継続しています。気候変動や洪水によるPOPs汚染の拡大への警鐘、天然生成由来の有機臭素系化合物など、新たな環境の研究テーマに関連する内容が豊富な会議でした。
筆者はこの会議に20年以上連続参加し、参加者の中では古株です。国内外の研究者とのネットワークも多数でき、最前線の研究活動や情報交換の中で、今後は、グローバルネットワークを通じた新たな環境問題への世界的な取り組みに、日本の分析機関の一員としてさらに貢献できればと考えております。