Dioxin2012 (32nd International Symposium on Halogenated Persistent Organic Pollutants) 参加報告
2012年8月26日更新
Dioxin2012 (32nd International Symposium on Halogenated Persistent Organic Pollutants) 参加報告
高菅卓三
Cairns Convention Center
開催期間:2012年8月26日(日)-8月31日(金)
開催地:Cairns Convention Center, Carins, Queensland, Australia
URL:http://www.dioxin2012.org
Symposium ChairはDr. Jochen MuellerおよびDr. Caroline Gaus, The University of Queensland
なお過去の会議情報は以下で閲覧可能です。
http://www.dioxin20xx.org/
【本国際会議の概要】
本会議は1980年から開催されている、残留性有機汚染物質(POPs)に関する国際シンポジウムで通称“ダイオキシン20##”などと呼んでいます。最近では2007年東京、2008年バーミンガム(イギリス)、2009年北京(中国)、2010年サンアントニオ(USA)、2011年ブリュッセル(ベルギー)と続き、今年2012年は、オーストラリアのケアンズで開催されました。 例年40以上の国から800~1000名ほどの研究者が参加します。スポンサーも30以上と、POPsに関する最大級の国際シンポジウムとなっています。その発表内容も、分析化学、環境化学、分子生物学、毒性・健康影響、リスクアセスメント、リスクマネージメント、発生源対策など非常に多分野にわたります。今回の参加者は600人程度でしたが、初めての南半球オセアニア開催であったため、北米やヨーロッパからは移動時間が非常にかかることから、例年よりこれら地域からの参加者は少ない傾向だったようです。参加者数は上位から順に主催国オーストラリア99、日本88、米国52、中国50、韓国37、スウェーデン32、カナダ23、ドイツ22、ベルギー16、台湾14、ベトナム14、オランダ11、一方で英国、イタリア、スペイン、スイス、フランス、ノルウェー、ロシアなど10名以下でした。またアフリカや中南米諸国からの参加者も増加しています。(8/23時点参加者リスト)南半球では冬期にあたりますが、ケアンズはオーストラリアの東北部に位置し気候は快適で、世界自然遺産のグレートバリアリーフや熱帯雨林などには観光客が多数訪れていました。
【主なトピック】
◎分析セッション (筆者 高菅はAdvanced in Instrument Techniquesセッションの座長を担当)
機器に関する話題としては、TOFMS装置(※1)の進歩が挙げられます。
TOFMSは、高感度、超高速データ取り込み、高分解能、定量性の向上など、今後のGC-MS、LC-MS分野に発展する可能性や、二次元GC(GC X GC)との組み合わせによる更なる可能性も期待されている装置です。前処理技術では自動化や、迅速・容易・安価・効率的・頑丈・安全をキーワードにした抽出前処理技術が多く開発され、使用する試薬や試料などの少量化への方向が主な流れとなっていました。また、バイオアッセイと精密化学分析との融合も最近では外せないテーマとなっています。PFOSはじめフッ素系化合物(PFC)の研究の進展や分析技術の進歩、特にLC-MS/MSも同様に進歩が見られました。
(※1)TOFMSについてはこちらを参照
https://www.shimadzu-techno.co.jp/annai/env/k01_09.html
◎臭素化ダイオキシン類(Br-DXN)に関心
臭素化ジフェニールエーテル(PBDE)を添加した食品を調理(焼くなど)すると臭素化ダイオキシン類が生成する可能性についての発表(ドイツDr. Vetter)にとりわけ参加者の関心が高かったようです。
日本では多くの魚を焼いて食べる習慣もあり、その再評価が今後必要であろうと考えられます。 また毒正当価係数(TEF)についてもBr-DXNを今後考慮する必要があるとの毒性学者の見解がでていました。来年2013年の4月7~10日にはBFR2013(臭素系難燃剤に関する国際シンポジウム)がサンフランシスコで開催されます。BFR国際シンポジウムは3年に一度開催され、前回BFR2010は京都大学で開催され活発な討論が行なわれました。BFRと冠が付くシンポジウムではありますが、塩素系・リン系含む難燃剤やその他の化学物質も対象としており、来年のBFR2013もこれらの話題を包括して活発な討論が行なわれると期待しています。
一方、食品汚染として、ニワトリの卵のDXNレベルが高いという報告がEUからありました。由来は餌だけでなく、平地飼いのため、汚染した土を食べることによると推察されます。
◎Unintentional formation of POPs from chemical manufacturing and use(化学製造および使用過程での非意図的生成POPs)の特別セッション
筆者らの発表した中国からの輸入工業製品である塩素化パラフィン(CP)中のPOPs汚染については反響も大きく、最後のハイライトセッションでde Bore教授(オランダ)からも紹介されました。現在、中国のCPの生産量は年間60万トン(2007年)と急増、インドやアフリカなどあわせると年間で約100万トンと生産量の急増が推定され、CPの不純物として有意なレベルでPOPsが存していれば、容易に非意図的生成POPs(U-POPs)の排出インベントリーにも影響する事が懸念されます。
また同セッションでは、日本の研究者からも多数発表がありました。中野先生(大阪大)は有機顔料中PCB汚染について発表されました。堀井氏(埼玉県環境科学研究センター)はカオリン中の天然生成由来のDXNについて発表されました。Dr.Weber氏(ドイツ)は先山氏(大阪市)、中野先生と連名で、クロロピリフォスの加熱生成による2,3,7,8-位塩素置換の含窒素ダイオキシン様化合物の生成とその毒性について発表されました。
【その他】
酒井先生(京都大)はDXN、PCB、BFRに関する環境制御チャレンジと題して基調講演され、廃棄物処理やその過程でのこれら化学物質について日本の研究事例を講演されました。
この国際会議の発表内容全体を通じて筆者が感じた変化としては、ダイオキシン類など有機塩素系化合物から有機臭素系難燃剤、そして有機フッ素系へ、また、発生源低減からヒトや生体内代謝物、さらにアジアやアフリカ地域へと研究テーマや関心が変わりつつあるということが挙げられます。
またNew POPs(※2)の分析技術、塩素系難燃剤のDechlorane類に関する発表。
気候変動や洪水によるPOPs汚染の拡大への警鐘、天然生成の有機臭素系化合物など、新たな環境の研究テーマに関連する内容が豊富な会議でした。
(※2)New POPsについてはこちらを参照
https://www.shimadzu-techno.co.jp/annai/env/k01_02.html
【最後に】
筆者はこの会議に20年以上連続参加しており、いつの間にか参加者の中では古株となりました。おかげさまで海外の研究者とのネットワークも多数でき、最前線の研究活動や、情報交換の中で切磋琢磨する日々を過ごしています。今後はこれらグローバルネットワークを通じ、これからの新たな環境問題への世界的な取り組みに、日本の分析機関の一員としてさらに貢献できればと考えております。