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PAHs(多環芳香族炭化水素)の分析[食品試料]

概要

 ベンゾ[a]ピレン等のPAHs(多環芳香族炭化水素)は、有機物の不完全燃焼や熱分解等で生成する化学物質で、発ガン性を有する事が知られており、 その毒性から、近年、EUや韓国等、国際的に規制が厳しくなってきています。特に、食品の加工(直火加熱、燻製)、調理(肉や魚が直接火と接触するような調理) の過程で意図せずに食品に含まれることが明らかとなり、韓国において、基準を超えるかつお節を使用した製品の回収措置が行われるなど、問題が表面化しています。
当社は、食品中のPAHs分析において、国内屈指の技術レベルと精度管理体制を有しており、特に問題となっている燻製食品(かつお節等) 中のPAHs分析について大規模な含有実態調査を受託するなど、豊富な実績があります。EU HACCP認定に伴う分析や、2021年4月からEUにおいて開始される混合食品規制への適合確認を目的とした分析などの対応が可能です。
食品試料中のベンゾ[a]ピレン、PAHsの分析については、当社にお任せください。


当社では、測定可能な媒体は、燻製食品等の食品試料だけでなく、大気、環境水、排出ガスなどの環境試料から、廃油、工業原料や製品試料と多岐にわたります。
 → 環境試料中のPAHsの分析についてはこちら >>    → グリーン調達についてはこちら >>

 

分析・試験項目

■分析コース

 食品中のPAHsについて、以下の成分を対象とする分析コースを用意しています。

コース1 欧州、カナダ、韓国、中国等で基準値が設定されているベンゾ[a]ピレンのみ。
コース2 欧州で、2012年9月1日からの最大基準値(総量)が設定されたPAHs4種類。
コース3 国際連合食糧農業機関(FAO)/世界保健機関(WHO)合同食品添加物専門家会議(JECFA)で、今後モニタリングすべきとして示されたPAHs14種類。
コース4 農林水産省が実施している調査事業(PAHs含有実態調査)で対象となっているPAHs17種類。

表 分析コース 対象成分 リスト

物質名 CAS番号 コース1 コース2 コース3 コース4
ベンゾ[a]ピレン 50-32-8
ベンゾ[a]アントラセン 56-55-3 -
ベンゾ[b]フルオランテン 205-99-2 -
クリセン 218-01-9 -
ベンゾ[j]フルオランテン 205-82-3 - -
ベンゾ[k]フルオランテン 207-08-9 - -
ベンゾ[c]フルオレン 205-12-9 - - ○(将来)
ジベンゾ[a,h]アントラセン 53-70-3 - -
ジベンゾ[a,e]ピレン 192-65-4 - -
ジベンゾ[a,h]ピレン 189-64-0 - -
ジベンゾ[a,i]ピレン 189-55-9 - -
ジベンゾ[a,l]ピレン 191-30-0 - -
インデノ[1,2,3-c,d]ピレン 193-39-5 - -
5‐メチルクリセン 3697-24-3 - -
ベンゾ[g,h,i]ペリレン 191-24-2 - - -
シクロペンタ[cd]ピレン 27208-37-3 - - -
ベンゾ[b]フルオレン 243-17-4     -
根拠 欧州や韓国において、単独で基準値設定されていることによる。 欧州委員会規則(EC) No 835/2011で4種類(PAHs4) の総量として基準値設定されたことによる。 JECFA 2006で遺伝毒性と発がん性があるとして、今後モニタリングすべき(あるいは将来の評価に役立つ可能性がある)とされたことによる。(14種) 農林水産省PAHs含有実態調査で対象となっていることによる。(17種)
※平成28年度調査よりベンゾ〔b〕フルオレンが追加。

法規制・規格

各種基準 (食品試料)

 食品中のPAHsについての海外における主な基準値(EU、カナダ、韓国、中国)を以下に示します。

表 EU (委員会規則(EC)No 835/2011) 2012年9月1日からの主な基準値

No. 食品名 最大濃度(単位:μg/kg)
ベンゾ[a]ピレン PAHs4*1の総量
1 食用油脂(カカオバター及びココナッツ油を除く) 2 10
2 カカオ豆及びその加工食品
(ただし11のカカオ繊維質を除く)
5.0(fatあたり) 30(fatあたり)
3 ココナッツ油( 直接又は食品中の成分として) 2 20
4 畜肉の燻製及びその加工品 2 12
5 魚介類の燻製及びその加工品(6、7を除く) 2 12
6 燻製スプラット(ニシン属の小魚)及び缶詰の燻製スプラット、
14cm以下のバルチックニシン及び14cm以下燻製バルチックニシンの缶詰 *2、
かつお節 *2、
二枚貝(生鮮、冷蔵、冷凍)、
加熱処理肉及びその加工品)
5 30
7 二枚貝(燻製) 6 35
8 乳幼児向け加工穀類食品 1 1
9 乳児向け調製乳及びフォローオン調製乳
(乳児向けミルク及びフォローオンミルクを含む)
1 1
10 幼児向け医療目的ダイエタリー食品 1 1
11 食品原材料用のカカオ繊維質及びカカオ繊維質由来製品*3 3 15
12 バナナチップ*3 2 20
13 植物及び植物調製物を含有するサプリメント並びにプロポリス、ローヤルゼリー、スピルリナまたはそれらの調製物を含有するサプリメント*3 10 50
14 乾燥ハーブ類3 10 50
15 乾燥香辛料類(カルダモン及びくん製とうがらし類を除く)*3 10 50
*1・・・ PAHs4:ベンゾ[a]ピレン、ベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[b]フルオランテン、クリセン
*2・・・ 2015年7月11日の委員会規則(EU) 2015/1125により基準値が引き上げられました。
*3・・・ 2015年10月28日の委員会規則(EU) 2015/1933により新たに基準値が設定されました。

表 カナダ保健省 食品中のベンゾ[a]ピレン基準値[単位μg/kg]

No. 食品名 ベンゾ[a]ピレン
1 オリーブポマースオイル 3

表 韓国(2010年6月付け告示第2010-51号) 食品中のベンゾ[a]ピレン基準値[単位μg/kg]

No. 食品名 ベンゾ[a]ピレン
1 食用油脂 2.0
2 熟地黄(スクジファン)及び乾地黄(ゴンジファン)  5.0
3 燻製魚肉(ただし乾燥製品を除く)  5.0
4 燻製乾燥魚肉(生鮮に基準適用。乾燥によって水分含有量が変化した場合は、水分量を考慮して適用する。)  10.0
5 魚類  2.0
6 貝類  10.0
7 軟体動物及び甲殻類  5.0
8 特別用途食品のうち乳児用調整乳、幼児用調整乳、乳幼児用穀類調整乳、その他ベビーフード  1.0
9 燻製食肉製品及びその加工品  5.0

表 中国(GB2762-2012) 食品中のベンゾ[a]ピレン基準値[単位μg/kg]

No. 食品名 ベンゾ[a]ピレン
1 穀類 5
2 燻製・加熱肉 5
3 燻製・加熱魚介類 5
4 油脂類 10

食品以外に、飼料中のPAHs等についての規制(ベルギーAFSCA:Avis 01-2014 du Comité scientifique)等、さまざまな規制への適合確認を目的とした分析や試料調製の対応が可能です。お気軽にご相談ください。

国内における最新動向

 日本においては、食品中のPAHsについての基準値は設定されていませんが、農林水産省や環境省等において、日本の食品中に含まれるPAHsについての研究や実態調査が行われています。
 一例として、農林水産省で行われた食品の安全性に関するサーベイランス・モニタリングの結果では、かつお節中のベンゾ[a]ピレンの平均値は、平成20年度(N=50)は29μg/kg、平成24年度(N=17)は19μg/kg、平成28年度(N=120)は110μg/kgとなっており、EUや韓国における魚介類の燻製の基準値を超過しています。
 また、食用油脂中のベンゾ[a]ピレンについては、えごま油やごま油について、EUや韓国における食用油脂の基準値を超過しているものがあります。直火加熱された食肉加工調理品(焼き鳥、鳥肉製品、畜肉製品)中のベンゾ[a]ピレンについても、EUにおける基準値を超過しているものがあります。
 ※これらの結果には、当社が受託分析した結果も使用されています。

出典:食品の安全性に関するサーベイランス・モニタリングの結果【有害化学物質】
・有害化学物質含有実態調査結果データ集(平成27~28年度)
・有害化学物質含有実態調査結果データ集(平成25~26年度)
・有害化学物質含有実態調査結果データ集(平成23~24年度)
・有害化学物質含有実態調査データ集(平成15~22年度)
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/survei/result.html [農水省HPへ]

国外における最新動向(対EU・HACCP認定に係る分析)

 欧州連合(以下「EU」という。)域内に輸出される水産食品については、生産(養殖場、漁船)から加工・流通に至るまで、EUの求める衛生基準等を満たすことを求められます。(加工施設のHACCP※認定の取得だけでなく、加工施設に原料を供給する漁船や養殖場、市場を経由する場合は市場の登録も必要となっています。)

出典: https://www.maff.go.jp/j/shokusan/hq/i-4/yusyutu_shinsei_ousyu_nintei.html [農林水産省HPへ]

※HACCP とは、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようする衛生管理の手法です。 国内でのかつお節等の加工施設のHACCP認定にあたっては、PAHsの分析が必要となります。

出典:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html [厚生労働省HPへ]

なお、2021年4月21日からEUにおいて新たな混合食品規制が施行される予定となっており、動物性原材料の配合割合が小さいめんつゆ、だし入り味噌、菓子、加工食品等のかつお節を含む混合食品についてもかつお節を含む混合食品についても、①EU認定施設で製造された動物性原材料への切替え、②製品の仕様変更などの対応が必要となります。

出典:https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/EU.html[農林水産省HPへ]

当社はこうした認定や規制への適合確認に係る分析にも対応します。

■分析の優位性

PAHsは複数のベンゼン骨格を基本構造とする化合物群の総称で、何百種類もの物質が存在し、環境中にも多く検出されます。その中から対象となる成分の測定を正確に行うには 高度な分析技術と知見・経験が必要です。当社は、環境試料中PAHsについて、GC-HRMSを用いた高精度の測定方法の確立をし、論文や学会等で発表を行い、 また排出ガスのPAHs測定マニュアル*の作成に関わるなど最新の知見に基づいた分析技術で対応可能な体制が整っています。
  *「排出ガス中の多環芳香族炭化水素(PAHs)の測定方法マニュアル(平成23年3月 環境省水・大気環境局大気環境課)」
http://www.env.go.jp/air/osen/manual2/pdf-gas/pahs.pdf
食品試料の分析は、食品の性状等に合わせた試料調製等が必要です。また、食品中のPAHsの分析には、ブランクの低減、前処理時の揮散などによる損失の低減等の対応も必要となります。当社は、省庁等における食品分析を数多く受託しており、こうした技術や経験を有しています。
食品試料については、(1)環境省の「ダイオキシン類請負調査受注資格審査」において「食品」及び「食事試料」について受注資格を有している、(2)食品中のダイオキシン類の定量分析についてISO/IEC17025の試験所認定を取得しているなど、国内屈指の精度管理レベルを有しています。

分析事例

■当社分析条件による分析クロマトの一例(標準品)は、こちらへ >>

関連情報

研究実績

研究成果の報告の一例を以下に紹介します。食品中のPAHs分析については、ぜひご相談ください。

・岩田 直樹、木邑 奈美、林 篤宏、井上 毅、高菅 卓三(島津テクノリサーチ)
  「高分解能質量分析計(GC-HRMS)を用いた食品中多環芳香族炭化水素(PAHs)の迅速分析法開発」
  第108回日本食品衛生学会学術講演会 (2014,金沢)
  発表要旨はこちらへ >>

20201019